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  ルイ・ブライユの偉業を生かすために

                     東京 木村多恵子

 以下は点字毎日が、ルイ・ブライユ生誕200年を記念した募集論文に、木村多恵子さんが応募した文です。残念ながら同誌の掲載には至りませんでしたが、お許しをいただいて本誌に掲載させていただきます。


 ルイ・ブライユが点字を考え出したのは、視覚障害を持つ自らが、いつでも何処でも表現できる文字が、どうしても欲しかったからである。文字なくして知識を得たり教養を高めたりできない。それまでのアルファベットを浮き出させた文字は、読めなかったのである。だがその点字は、彼の生前には社会に受け入れられなかった。彼の死後点字は、明治維新直後の日本に届き、日本語に合った点字が必要と、石川倉次氏が「日本語点字」を翻案した。しかし漢字を作るまでには至らなかった。
 1969年、川上泰一氏が「漢点字」を発表して、日本の視覚障害者にも文字の曙が訪れた。2点増やして、漢字とかなとを分けて、触読に適したものにした。今では視覚障害者もパソコンで漢字仮名交じり文を書いている。だが書くことができるようになれば、語彙の貧しさに気づくはずだ。語彙を豊かにするには、常に「読む」ことを心がけなければならない。そこで漢点字の力が発揮される。
 横浜で、『常用字解』(白川静 編 平凡社 2003年)の漢点字訳が完成し、既に横浜中央図書館に納められている。これらの漢点字書は、点字データとしてピンディスプレイで読めるソフトも用意されている。
 「常用字解」は、白川漢字学の集大成の書である。この見出し文字には、川上氏の提唱した字式が添えられている。これによって、視覚障害者にも漢字の形が分かる。わたしは、この本を読み始めた。漢字成立期の殷、周の古代の人々の生活習慣、神への畏敬の念や祭事の方法が、文字の成り立ちと深く関わっていることが記されている。
 漢字教育は子供の時から受けるのがよい。触読文字である点字は、視覚障害者にとって必須であるから、漢字も触読文字で学ぶ必要がある。従って、漢点字を初等教育が取り上げるのが最も現実的であろう。このようにして、漢点字を学習した子供たちは、わたしたちとは別の人生を歩むはずだ。ブライユの仕事をベースに2点加えるだけで、漢字が生きてくる。彼が点字を考案したのは、文字を持つことによって豊かな人生を生きたいと願ったからではなかったか。


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