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       日本の識者が見る第19回党大会

                       村田 忠禧(横浜国立大学名誉教授)

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 下記は、横浜国立大学名誉教授・村田忠禧先生が、昨年発表されました論文です。先生は、外交関係について、常に新たな視点をご提供下さっておられます。

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【日本の識者が見る第19回党大会】
     第二回〜村田忠禧氏
  http://japanese.cri.cn/2021/2017/12/01/142s267520.htm
        村田忠禧(横浜国立大学名誉教授)

 1978年12月の中共11期中全会以来、ケ小平の「貧窮は社会主義ではない」との論断に基づき、中国は経済建設を第一の任務とする四つの現代化、改革開放路線を歩んできた。その過程で中国は社会主義の初級段階である、との認識を明確に提起した。しかしどのように社会主義を建設するかについて、世界史上に既存の処方箋があるわけではない。「摸着石頭過河」のたとえの通り、中国の現実を踏まえ、中国の実情に合致するものは積極的に取り入れる改革開放を採り、社会主義=計画経済、資本主義=市場経済という「公式」を打ち破り、社会主義市場経済の建設の道を切り開いていった。
 日本を抜いて世界第二の経済大国になりはしたが、解決を要する問題、新たに発生する課題は山積している。共産党員の根本的任務である「為人民服務」という精神を忘れ、自己の利害を第一に考える党員が増えた。末端組織から中央にいたるまで、大衆から遊離した腐敗分子がはびこるようになった。腐敗の蔓延は指導政党である共産党への信頼を根底から揺るがすもっとも深刻で、緊急に解決を要する問題となった。
 このような時期に習近平は総書記に就任した。就任後、彼がもっとも力を入れたのは「トラもハエも叩く」反腐敗の闘争であり、その徹底した戦いは人民大衆から称賛を浴び、党と人民との距離を再び近づけ、党を若返らせ、戦闘性、先進性、指導性を復活させた。
 小康社会の全面的実現は目前に迫っている。その次の目標は、自国人民の暮らしをより豊かに、より快適に、より健康的に、より文明的に、より全面的な現代化社会を実現させることである。それと同時に地球規模で発生している課題について「共商・共建・共享」の原則で積極的に関わっていくことが求められている。
 今や世界第二の経済大国としての地位を固めた中国は国際社会の舞台においても責任ある大国としての役割を果たしつつある。「韜光養晦」から「大有作為」への転換である。中国自身の総合国力の向上に伴い、「一帯一路」構想や「AIIB」(アジアインフラ投資銀行)の設立などの提起を通して、中国自身の発展を周辺諸国、とりわけ発展途上国のインフラ整備事業の共同実施により、地球規模での新たな「共に豊かになる」道を切り開こうとしている。そこで提起された基本理念は「人類運命共同体」である。
 時代の変化とともに解決すべき課題も変化していく。第一の百年(小康社会の全面的建設の実現)を踏まえ、もう一つの百年である21世紀半ばまでに社会主義の現代化を実現するという目標の提起はきわめて時宜に即したものと言える。
習近平報告では第二の百年を2020年から2035年までの15年間と2035年から2050年までの15年間に分けた。2035年までにGDPで米国を抜いて世界第一位になることは決して難しい課題ではない。人口が米国のおよそ4倍なので、一人当たりGDPが米国の4分の1であっても米国を抜く計算だからである。
 しかしGDPだけが現代化実現の尺度ではない。物質的豊かさの追求だけが総てではない。全面的小康社会の建設が実現したあとの人々の要求は実に多様になる。人々の日々の生活にたいする充実感、幸福感、安心感、連帯感、社会や環境保護などへの貢献意識など、さまざまな角度から現代化を考える必要がある。また価値観の多様性を認め合うことも必要で、そのためには各人の思想信条、文化と伝統を尊重し、憲法その他の法律に反しない前提で、言論・出版の自由が認められ、学問研究では百家争鳴が保証される必要がある。
 日本では「2035年までに国防と軍隊の現代化を基本的に実現し、今世紀中葉までに人民の軍隊を世界一流の軍隊に全面的に建設する」といった記述から、中国の軍事力増強に懸念を表明する論調がかなり見受けられる。しかし「報告」で軍隊・国防を論じている分量は全体の4・3%に過ぎない。「強国」という表現は「軍隊・国防」にだけでなく、「人才」「科学技術」「質」「宇宙」「ネットワーク」「交通」「貿易」「文化」「体育」「教育」など様々な分野で用いられている。「站起来(立ち上がる)」、「富起来(豊かになる)」の次の段階として「強起来(強くなる)」という表現を用いているのである。
 貧困からの脱却のための社会主義の段階は越え、これからはすべての人々が全面的に豊かになる社会を実現することを目指す。それは中国の夢の実現であるとともに、世界の希望・期待でもある。

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