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       アジア文明対話大会に参加して
                       村田 忠禧(横浜国立大学名誉教授)

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 以下は、横浜国立大学名誉教授の村田忠禧先生が、この春にご講演なさいました時の、レジュメです。お隣の国の中国の現状を、私どももよく理解することは、非常に大事なことと思います。

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 習近平国家主席が2014年5月21日、上海での国際会議で初めて提唱した「アジア文明の交流・参考と運命共同体」をテーマとする「アジア文明対話大会」が5月15日から北京で開かれた。アジア47ヶ国を中心に、世界の政治家、国際機関や文化、教育、映像、研究、メディア、旅行などの関係者およそ2000人が参加した大規模な催しであった。そのうちの「アジア国家治国理政経験交流会議」に筆者は参加した。

 習近平国家主席の主旨講演

 15日午前の開幕式の講演で習近平国家主席は大会の主旨を明らかにした。文明は多様であるから交流し、交流することで学びあい、学びあうなかで発展していく。アジアの、さらには人類運命共同体を実現するための基盤作りに以下の四点を堅持すべきと主張した。
 第一に「相互尊重、平等相待」(文明に優劣・上下の違いはなく、互いに尊重し、平等に対処する)。
 第二に「美人之美、美美与共」(「他者の美を美とし、自他の美を共に美とする」、他国の長所を学び、互いに文化を学び合う)。著名な社会学者・費孝通の格言に基づく。当日の晩、「鳥の巣」で行われたカーニバルでもジャッキー・チェンがこれを朗詠した。

 第三に「開放包容、互学互鑑」(開放と包摂、互いに学び、互いに参考とする)。
 
第四に「与時倶進、創新発展」(時代と共に前進し、たえず革新して発展する)。
 この基調講演は人類の歴史を「文明の衝突」といった視点から捉えるのではなく、文明の多様性、平等性を認め、交流を通じて互いに学びあい、時代の要請に応えて発展していく、という考えを明確に打ち出しており、きわめて重要な問題提起であると思う。

 運命共同体の構築のための第一歩

 16日は6つの分科会の同時進行で、私は第1分科会(政治文明のアジア的知恵)に配属された。報告者が多いため発表は各人7分以内という制約があり、発表には苦労した。
 私は「対抗ではなく協力・共同して問題を解決する努力」というテーマで、領土問題の平和的解決の提言を行った。「運命共同体」の理念が根付くことが不可欠と思うからである。
 日中間では国交正常化と平和友好条約締結交渉に際し「求同存異」の精神から、領土問題を取りあげることを避けた。両国関係が健全に発展し、平和的に解決するための条件が育つことを期待していたのであろう。しかし現実には小さな島の問題が相手国への不信感・警戒心を煽り、良好な関係構築の障害物になっている。われわれはこの負の遺産をこれ以上拡大させてはいけない。
 そのためには政府間で、領土問題の見解に相違がある現実を認め、平和的に解決することを約束する文書を交わし、信頼回復のための具体的措置を実施していく必要がある。
 同時に悪化した国民感情を改善するため、民間レベルで冷静で客観的、科学的な認識を広める必要がある。自国に都合のよいことだけを取りあげ、相手の主張には耳を貸さない態度のままでは議論したところで解決にはいたらない。相手の主張にも耳を傾け、総合的に問題を見る精神を広く両国民の間に根付かせる必要がある。
 そのためには日中双方の研究者が共同して問題を探究する場を作る必要がある。まずは事実の共有化の実現を目指す。互いに真実であると考える根拠を出し合い、それを共同して検証・鑑別する作業を行う。事実の共有化ができれば、全体像が次第に明確になってゆく。まとめることが可能になったら、それぞれの言語に翻訳し、資料集、論文集、さらにはインターネットでも公開して、誰もが自由に利用できるようにする。
事実の共有化が進めば、認識の共有化も次第に実現していく。客観的裏付けをもった認識なので、さまざまな荒波にも耐え得る。事実を尊重する理性的、科学的精神が育っていけば、双方が納得できる平和的、合理的、友好的な解決策が見えてくるであろう。時間はかかるかもしれないが、こうした地道な活動を堅持していけば必ずや光明が見えてくるであろう。
 日中の研究者の共同作業は夢物語ではなく、すでに始まっていることを最後に報告しておいた。
 「アジア文明対話大会」は初めての試みであり、不十分な点がないわけではない。しかしこのような催しを通してアジアの相互理解と連帯の輪が広がることは有意義である。そしてスケールの大きな企画を実施できる中国の「底力」を改めて実感した。
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