「うか」127  トップページへ
ニ ュ ー ス ・ お 知 ら せ

      ご報告とご案内    岡田 健嗣

 本会では毎年、横浜市中央図書館に、漢点字書を納入しております。一昨年度までは10年を掛けて、『萬葉集釋注』(伊藤博著、集英社文庫)を、漢点字訳して納めました。昨年度は、『古事記』(次田真幸著、講談社学術文庫)の上巻と中巻を納めました。
 今年度は『古事記』の下巻と、『新芭蕉俳句大成』(堀切実・田中善・佐藤勝明編、明治書院)の冒頭の部分を、漢点字訳して納入する予定です。
 ここにその「序」を、ご紹介致します。

 序

 第2次大戦後の芭蕉研究は大きく変化した。芭蕉の作品の中で最も親しまれてきた発句(俳句)についても、そこに「詩」を読むことと共に、「俳諧」を読み取ることが加わり、新しい解釈・鑑賞が展開されてきた。例えば「古池や」の句についていえば、これを日常詩として見る白石悌三の説、『袋草子』の故事のパロディと見る深沢眞二の説、切字「や」の後の空白を重視して蛙は実際には池に飛び込んでいなかったと見る長谷川櫂の説など、様々の説が提示されてきた。
 芭蕉発句の注釈は、『校本芭蕉全集』をはじめ、いくつかの古典文学全集類中の芭蕉句集や単独著者による芭蕉注釈書などにおいて、全句評釈が試みられてきたほか、各種の講座・辞典類でも多く取り上げられ、さらに研究者や俳人の著作や論文・評論の中でも、その1句1句について独自な解釈が展開されている。
 本書は、そうした戦後約70年間に登場してきた諸説の要旨を整理し、可能な限り本文を引用することに務めながら、それぞれの句の解釈の方向性を探ろうとしたものである。
 本書に先行するものとして、江戸期以降、1960年頃までを扱った、岩田九郎の『諸注評釈 芭蕉俳句大成』(明治書院、1967)がある。この『大成』の果たした意義はきわめて大きいものであった。本書はこれを発展的に継承し、戦後、新しい芭蕉句研究の出発点となった山本健吉の『芭蕉―その鑑賞と批評』(新潮社、1955~56)以降、現在に至るまでの諸注集成として編纂したものである。
 研究者はいうに及ばず、一般読者、俳句愛好者にとっても座右の書としてきわめて便利であり、かつ有益なものになっていると確信する。
 2014年秋   編者

 (以下、凡例から、本書の構成について)

 掲出句(底本)
 【考】 成立年次、季語、前書など。季語は「春」「夏」「秋」「冬」の四季で分類した。また、底本以外の前書も適宜ここで紹介した。
 【解】 句の解釈と語釈。
 【諸注】 各文献を、イ 全句評注釈書類、ロ 講座・辞典類、ハ 研究書・評釈書・学術論文・評論などに分類し、できる限り本文を引用しながら、その要旨を年代順に紹介した。主要文献の詳細は次項および後掲の「引用書目解題」を参照のこと。引用にあたっては、文献の取捨選択はあっても、その扱いは努めて公平になるよう留意し、客観的で丁寧な記述に留意した。
 【形】 句形の異同、初案、改案、成案。なお、芭蕉と同時代のものを中心に検討したため、「底本にのみ所収」とした場合も、時代を下って掲載されている可能性もある。
 【評】 1句の問題点と今後の展望。執筆者による全体の総括。
 トップページへ