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ニ ュ ー ス ・ お 知 ら せ

      ご報告とご案内    岡田 健嗣

 毎年この時期になりますと、横浜漢点字羽化の会では、横浜市中央図書館に納入する漢点字書の製作の最終段階に差し掛かります。今年度も以下の図書の漢点字訳書を納入する予定です。
 今年度は、前年度に積み残しました図書、『古事記』(次田真幸(つぎた・まさき)校注、講談社学術文庫)の下巻・4分冊と、『諸注評釈新芭蕉俳句大成』(佐藤勝明編、明治書院)の頭の部分、第1分冊から第3分冊までの納入を予定しております。
 『新芭蕉俳句大成』の紹介文に「編者 堀切実・田中善信・佐藤勝明」、「編集委員 藤原マリ子・玉城司・金田房子・深沢眞二」とあります。

 以下に、有名な「あら海や」の句のその解説の抜粋を収めます。

 あら海や佐渡によこたふ天河    (真蹟懐紙)

 【考】 元禄2年(1689)年7月上旬、北陸行脚中の作。季語は「天河」で秋。『曽良書留』の前書に「七夕」。『俳諧勧進牒』には「いづもざきにて」の前書があり、同内容の前書や文章を備えるものが多い。『曽良日記』によれば、出雲崎に泊ったのは7月4日で、7月7日は高田に逗留。版本初出の『其袋』では直江津での作と暗示される。『本朝文選』所収の俳文「銀河ノ序」では、金山があり流刑の地でもあった佐渡の歴史を記し、自らの旅愁を吐露した上で掲出。『おくのほそ道』ではそうした記述の一切を省き、「酒田の余波`なごり 日を重`かさね て、北陸道の雲に望`のぞむ。遥々`ようよう のおもひ胸にいたましめて、加賀の府まで百丗里と聞`きく。鼠の関をこゆれば、越後の地に歩行`あゆみ を改`あらため て、越中の国一ぶりの関に到る。この間九日、暑湿の労に神`しん をなやまし、病`やまい おこりて事をしるさず」とし、「* 文月や」句と並記する形で掲出。
 【解】 荒波が立つこの海の向こう、佐渡が島にかけて天の川が大きく横たわっている、の意。「よこたふ」は文法的に「横たはる」とあるべきところながら、「横たふ」を自動詞として使った例も報告され、蜂矢清人「横たふ考」(「文法」1970・3)など、漢文訓読の影響であることも指摘される。また、この時期の銀河は佐渡方面に横たわらないとの指摘(荻原井泉水『奥の細道評論』等)に対して、現在の大勢は、まったく方角が違うわけではなく、事実に拘泥し過ぎる必要はないとする。
 (中略)
 【評】 「よこたふ」の表現については、漢詩の影響であるとの認識がほぼ共有されており、七夕時に銀河は佐渡に横たわらないという点は、問題にしないのが最近の傾向。これらに新たな視点をもたらす『金田前書』の指摘は、貴重で示唆的。各前書や文章との関連で、位置づけがどう変わるかという視点が不可欠の句であり、『全講』『安東芭蕉』『堀切ほそ道』『金田前書』などを参考に、さらに追究することが求められる。 [佐藤勝明]
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