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   点字から識字までの距離(73)
      著作権法改正(下)

                         
山内薫(墨田区立あずま図書館)

 今回の著作権法改正ではこの他に第37条第2項が(聴覚障害者のための自動公衆送信)から(聴覚障害者等のための複製等)に変わり、次のようになる。
「第37条の2 聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある者(以下この条及び次条第5項において「聴覚障害者等」という)の福祉に関する事業を行う者で次の各号に掲げる利用の区分に応じて政令で定めるものは、公表された著作物であって、聴覚によりその表現が認識される方式(聴覚及び他の知覚により認識される方式を含む)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。この条において「聴覚著作物」という。)について、専ら聴覚障害者等で当該方式によっては当該聴覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、それぞれ当該各号に掲げる利用を行うことができる。ただし、当該聴覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第75条の出版権の設定を受けた者により、当該聴覚障害者等が利用するために必要な方式による公衆への提示が行われている場合は、この限りでない。
1 当該聴覚著作物に係る音声について、これを文字にすることその他当該聴覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うこと。
2 専ら当該聴覚障害者等向けの貸出の用に供するため、複製すること(当該聴覚著作物に係る音声を文字にすることその他当該聴覚障害者等が利用するために必要な方式による当該音声の複製と併せて行うものに限る。)」
 この条項に対して日本図書館協会は以下のような要望を提出している。
 2.1.法第三七条の二に「福祉に関する事業を行う者で次の各号に掲げる利用の区分に応じて政令で定めるもの」とあり、2つの利用区分が設けられるが、公立図書館においては既に字幕ビデオを製作している館があることや、今後,障害者へのサービスを大きく進展していく必要性があることを考慮し、図書館を1号、2号両号で指定すること。
 2.2. 同条、「ただし、当該聴覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七九条の出版権の設定を受けた者により、当該聴覚障害者等が利用するために必要な方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。」に関して、下に掲げた方策等により、現状の障害者への情報提供体制を下回ったり、限定的なサービスしかできなくなってしまったりすることがないように配慮すること。
 (1) 図書館などが製作を開始した後に、「提供又は提示」がされることのないよう,出版社等に情報開示の指導等を行うこと。
 (2)価格上の問題で、実質的に購入できなくなったり、購入量が減少したりし、結果として障害者への情報提供が阻害されることのないように、原本となる字幕等のない映像資料の価格と比較して適正な価格となるように指導等を行うこと。
3 営利を目的としない上演等(法第38条第5項関係)
 3.1. 図書館が字幕ビデオなどを貸し出す場合、障害者への情報提供のサービスに支障が生じないよう補償金を実質的に支払わなくても良いようにするなど配慮すること。
※ここでは、映像に字幕や手話を入れることが可能になり、そうした資料を複製したり貸し出ししたりすることができる施設に公立図書館も入ることになる。1998年の障害者サービス全国実態調査では、わずか1館が字幕入りビデオを制作したと回答しているのみであるが、例えば大阪府の枚方市立図書館には、日本手話を第1言語とする図書館員がおり、手話字幕入りビデオを制作しているし、仄聞するところによれば、全国の新しくできた複数の図書館に、ビデオに字幕を入れる装置が設置されていると聞いている。今後は、すべての公立図書館が、「聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある」人に対して音声を文字にしたり手話にしたりするサービスを行わなければならなくなると言ってもよい。現在公立図書館で貸し出されているビデオやDVDは著作権の関係から補償金を支払ったものでないと自由に貸し出しすることができない。現状では図書館で購入するビデオやDVDは原価の数倍の補償金を支払って購入しているのが現実である。しかし、聴覚障害者用の字幕ビデオ・DVD等に関しては補償金を支払わなくても良いようにしてほしいというのがこの要望である。
 また字幕入りビデオといっても洋画など通常のせりふを翻訳しただけの字幕は、聴覚障害者用字幕とは言えない。洋画に付いているような字幕は一般の人向けの字幕であって、聴覚障害者用の字幕はまた違ったものが必要である。例えば犯人が部屋に入っていってドアが閉まり、ピストルの発射音がすれば、私たちは、そこで誰かが撃たれたということが分かるが、ピストルの発射音が聞こえない人にとっては、何が起こったのかが分からない。従って聴覚障害者用の字幕では、ピストルが発射されたことを文字で伝えなければならない。また、物語の進行に大きな役割をする風の音なども文字で表さなければならない。そうした意味で聴覚障害者用の字幕はオリジナルなものである。
 以上のように今回の著作権法の改正は読むことや聞くことに障害のある人々を非常に広範囲に対象とし、しかも今後現れるであろう媒体も含めて1人1人の読むこと,聞くことの障害に合った媒体による複製を容認している点で画期的な改正である。
 今までの公立図書館の障害者サービスはほとんどが視覚障害者へのサービスであったといっても過言ではない。それ以外の読むことに障害のある人々に対する施策については、残念ながら少数の実践があるだけで、ほとんど取り組まれ来なかった。しかし今回の改正によって様々な読むこと、聞くことの障害に対して公立図書館が政令で定められた施設になれば、今までのようにそうした障害に無関心ではいられなくなる。公立図書館は様々な読むこと聞くことの障害を解消していく責任を公的に負ったということになるのだ。


 
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