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   点字から識字までの距離(76)
      墨田福祉作業所への出張貸出(3)

                         
山内薫(墨田区立あずま図書館)

 2010年2月9日の第2火曜日に、2回目の貸出を行った。1回目の反省からCDの数を大幅に増やし、その他に漫画や絵本、料理の本、若い人向けの雑誌などビジュアル系のものを多めに持って行った。前回リクエストのあった囲碁・将棋の本やクイズの本、旅行関係の本などもいくつか取りそろえた。また前回拡大写本を借りて下さった方のために、『赤毛のアン』の続きの分冊や絵本をB4サイズ横型で描いた拡大写本の『スーホの白い馬』(モンゴル民話、大塚勇三再話、赤羽末吉絵、福音館書店)や『あかいありとくろいあり』(かこさとし作 偕成社)『ロバの旅』(レオ・ポリティ文・絵、ノーラン・クラーク文、石井桃子訳、岩波書店)等を持って行った。
 CDについては希望のものを図書館ではあまり所蔵しておらず、仮に所蔵していても人気のCDはリクエストが沢山かかっているために、相当期間待たなくてはならないこと、施設での貸出期間を1月に設定しているため、リクエストの多いものを通常CDの貸出期間である1週間ではなく1月も貸し出しできない等の理由から、障害者サービス資料用の予算を使って特別に施設貸出用に以下のようなものを購入して持って行った。
 「Jアルバム」KinKi Kids、「ULTIMATE DIAMOND」水樹奈々、「おかあさんといっしょスペシャル50セレクション」、「あの・・こんなんできましたケド。」遊助、「ハジマリノウタ」いきものがかり、「EXILE BALLAD BEST」EXILE、「All the BEST! 1999―2009」嵐、「WE LOVE」ヘキサゴン、「いままでのA面 B面ですと!?」GReeeeN、「THIS IS IT」マイケル・ジャクソン、「ICHKO THE BEST ONE」ICHIKO、「愛すべき未来」EXILE
 これらのCDは持って行くとすぐに借りられた。

CDを選ぶ


 リクエストの本以外に借りられた資料は次のようなものだった。
「ゴジラ大全集」「ゴジラ特撮大全集」「サンドイッチのおいしいレシピ」「焼きチョコ&生チョコかんたん・おいしいチョコレートのお菓子」「新東京さわやか散歩」「東京都内乗り合いバス・ルート案内」「サッカー上達ブック」「なぞなぞ大王様」「脳ミソ超パニック最強IQクイズ」
 また、拡大写本の「グリム童話集」1分冊から3分冊も借りられた。
 2回目の貸出は、利用者が29名で、そのうち7名は今回初めて借りる方だった。第1回の時に借りて下さったが今回借りなかった方が3名おり、そのうちの1人はお父さんから借りてきてはいけないと言われたので借りられないと話された。残念だが、この方のように親などに言われて借りられないという方がふれあいセンターにもさんさんプラザにも何人かおられる。
 なお今回、作業所をお休みするなどで前回借りた資料を返却できなかった方が8名いらした。
 この日借りられたのは、本や雑誌が55冊、CDが45点、その他に拡大写本が7冊の計107点だった。また、新たに券を作られた方が4名いらしたので、登録者の総数は40名ということになった。
 墨田福祉作業所での2回の貸出を通して感じたことは以下のような点だった。

リクエストした本を受け取る

 1月の貸出で拡大写本の『赤毛のアン第1分冊』を借りた利用者の方に、続きの2〜5分冊をお持ちしたところ、本を借りて、すぐにぱらぱらと数頁見て、読んだから返すと言われてしまった。要は前回借りた拡大写本も読んでいなかったものと思われた。また、もう1人積極的にリクエストもし、沢山借りて下さった方も「ひとつも読めなかった」と言って借りた本を返して下さった。借りては下さっても、実際に借りた本を読んでいないという方が結構いるように思われたのだ。本来、図書館は借りられた資料がどのように利用されようが、借りた方の自由であり、個人の読書の仕方、読むか読まないかまで踏み込んで考えることはして来なかった。しかし折角、興味を持って資料を借りて下さったのだから、よりよく利用して頂けたり楽しんで頂けることまで考えたいと強く思ったのだった。

絵本の拡大写本
絵本の拡大写本

 世界の図書館が集まって構成しているIFLA(通称イフラ、世界図書館連盟)という組織が発行している『読みやすい図書のためのIFLA指針』(ブロール・I・トロンバッケ編著 日本障害者リハビリテーション協会訳、この連載の22回、「うか」第25号で、この指針については取り上げたことがある。http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/easy/ifla.html)では、読書指導員という項目を立ててスウェーデンの例を紹介している。それによれば、「読書を奨励し、それによって読みやすい図書の出版機会を増やしていくために、また効果的な情報提供とマーケティングの安定を図るために、スウェーデンの読みやすい図書基金は、文化、社会、教育的プログラムを基本に、地域に密着した読書指導員の組織が必要であると判断した。読書指導員には将来読者になる見込みがある者との接触をはかる義務がある。」とし、そのプロジェクトの結果「本を与えられれば読める知的障害者が、最初考えられていたよりも多かった。更に、その中の多数の者が、それまで認められていた以上の知識をはっきりと示し、また、読書サークルによって異なるテーマへの関心が呼び起こされると、質問や討論へと発展した。

貸出が一段落して三本締め
貸出が一段落して三本締め

本のお陰で、以前は表現することができなかった思考や観念を言葉にすることもできた。ほとんどの参加者にとって、本は大きな価値をもつものとなった。」と、締めくくっている。スウェーデンでは国の援助によって、知的障害者や移民など読むことに困難を抱えている人達を対象としたやさしく読める本を年間30冊ほど発行し続けている。
 図書館員は、このような、いわば読書相談員(指導員という言葉よりもむしろ相談員という言葉の方が適切のように思う)のような役割を持つ必要があるのではないかと考える。それぞれの人の興味関心に沿った、その方にふさわしい図書を探し出して提供したり、場合によっては読んでさしあげたり、内容を易しく説明したりすることができればと思わずにはいられない。(なお、このIFLA指針は現在改定版を日本障害者リハビリテーション協会で翻訳中とのことである)

貸出用の机とハンディスキャナ
貸出用の机とハンディスキャナ

 そしてもう1点、そうした方々に有効な資料として思い浮かぶのがマルチメディア・デイジー図書である。昨年『 赤毛のアン』 のマルチメディア・デイジー付き図書が発売された。(村岡花子訳 ポプラ社文庫版)このマルチメディア・デイジー図書であれば、苦労せずに読んで頂けるのではないかと思った。しかし、授産施設で働いておられる方々の内、何人の方がパソコンを自由に操作できる環境を持っているだろうか。多分そうした方はほとんどいないのではないかと思われる。今までの緑図書館での経験から、そうした方々に図書館に来て頂ければ、その場でマルチメディア・デイジー図書を見て頂くことが出来る。そのためには皆さんに気軽に図書館に来て頂くための方策を考える必要があるだろう。

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