「うか」83号  トップページへ
     点字から識字までの距離(79)
             盲学校・ろう学校生のインターンシップ(3)

                           山内 薫(墨田区立あずま図書館)
 午後は毎月第一木曜日の午後に行っている貸出と絵本・紙芝居・歌を行うために特別養護老人ホームの東京清風園に向かった。いつもは自転車で行くのだが、その日は三人でおよそ三十分の道のりを途中錦糸町の駅前を通って様々なお店などを紹介しながら歩いて行った。東京清風園で本の出張貸出をはじめたのは一九九七年からで、初めの頃はよく本を読まれるお年寄りが十名近くおり、様々な本が良く借りられていた。しかしそうした利用者が亡くなり、その後に入所してくる方は介護度の高い方が多く、次第に本を読む方が少なくなってきた。そこで二〇〇二年から本の貸出だけではなく、紙芝居や歌を交えた催し物を行うようになった。場所は二階のデイサービスのフロアを使い、デイサービスに来ている方と入所者の方は二階に降りてきて頂いて四十分程の催しを行う。
Mさんの手品
紙芝居を見るKさんとSさん
憧れのハワイ航路の練習

 当日の催し物は始めに紙芝居の「どくのはいったかめ」、次に同じく紙芝居の「あっぷっぷう」、もう一つ紙芝居を上演した後、一九五〇年代の街頭紙芝居「γ(ガンマ)彗星団」を上演した。いつもは紙芝居だけではなく、絵本やパネルシアター、エプロンシアターなどがその間に入るのだが、その日はたまたま全てが紙芝居という構成になった。
 その後は恒例の手品が五分程行われた。手品を演じて下さるのは、Mさんという川口にお住まいの八〇歳近い男性で、江東区を中心に落語などを行っている楽笑会というグループに所属している方だ。この楽笑会が年に二回開いている公演で客演したことのある府中市立図書館に勤務する女性講談師のIさんからMさんを紹介して頂き、二〇〇四年から毎月清風園で手品をして下さるようになった。Mさんの手品はとても好評で清風園の皆さんもとても楽しみにして下さっている。その日はまず短いロープを使った手品に始まり、次は大きなトランプの手品、続いて今度は長いロープの手品、そしてリングの手品で締めくくられた。Mさんはとてもユーモアのある語り口で話しをしながら手品をなさるので驚きと共に笑いが絶えずお年寄りも心から手品を楽しまれている。
 さてここまででおよそ四〇分の時間が経過し、いよいよ最後の歌の時間になった。まずはじめに清風園の皆さんにKさんを紹介し、Kさんの伴奏で「うみ」を歌った。続けてTさんとのピアノ連弾で「憧れのハワイ航路」、そして最後は先月から始まった「鉄道唱歌」の二回目で、この日は七番の鎌倉八幡宮から横須賀を経て一一番の大磯までを歌った。この「鉄道唱歌」は十一ヶ月かけて東海道の終点神戸まで歌い継ぐ予定になっている。
 歌の時間が終わって再度皆さんにKさんを紹介すると満場の拍手がKさんに送られた。その後恒例の紙芝居をやって頂いた演者と手品師のMさんを紹介し、この日の全てのプログラムを無事終了した。
 帰りも再び三人で歩いて緑図書館まで歩いて帰ったが、Kさんと一緒に歩く立教大学のSさんのガイドぶりも板に付いてきた。
 図書館に帰ったあと歓談しながらKさんはお昼に習った独楽の折り紙を要領よく折りはじめた。
 当日のKさんの日誌には次のように記されていた。
「今日一日は昨日と違って、大分慣れ、不安と緊張はピアノ以外あまり感じませんでした。
 小さな子供のためのお話会ではピアノの伴奏は緊張しましたが、緊張しすぎない程度でよかったです。ですが、伴奏の途中で、間奏の部分や最後の部分を弾き忘れてしまったことが、とても悔しく感じました。
 清風園での伴奏では、連弾という滅多にできない経験ができました。が、憧れのハワイ航路を最後まで覚えられなかったことを悔しく思います。
 今日は大勢の方とお会いし、中々名前を覚えることができなかったので、明日大勢の方とお会いしても落ち着いてより沢山の名前を覚えたいと思っています。」
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