漢点字入門  初歩の初歩     漢点字ってこんな字  1. 漢点字は1マス8点です。  点字の最小単位はマスです。  点字ではこのマスを1個または数個組み合わせて、1つの文字や記号類を表します。  仮名の点字の1マスは、縦3点2列の、6点の組み合わせでできています。  この6点の上に、漢字の始まりの印(始点)と終わりの印(終点)を付けて、1マス8点の構成にしたものが点字の漢字=i漢点字)です。  〈仮名点字の1マス〉  1マス6点の配置図。左列3点、上から1、2、3。右列3点、上から4、5、6。  (1の点、2の点、3の点…と呼んでいます。)  〈漢点字の1マス〉  1マス8点の配置図。1の点の上に始点、4の点の上に終点。  (始点は0の点、終点は7の点ともいいます。)  《漢点字は、下6点の形を見てください。》  漢点字は、6点の組み合わせの上に、漢字の印である始点・終点を付けたものです。  漢点字の形や意味を考える時は、下の6点の形を見るようにしてください。  2. 漢点字の漢字1文字は、1〜3マスでできています。  1マス漢点字  もっとも基本となる1マスの漢点字で、57個あります。上に始点と終点が付きます。  2マス漢点字  もっとも数の多いのが2マスの漢点字です。1マス目に始点、2マス目に終点が付きます。  3マス漢点字  使用頻度の少ない漢字に、3マスの漢点字をあてています。1マス目に始点、3マス目に終点が付きます。  《基本は1マス漢点字》(以下、点字符号を図示)  「め」 「目」  仮名点字の6点全部そろった形が「め」です。  この「め」の上に始点・終点を付けると、漢点字の「目」になります。  「き」 「木」  仮名「き」は、1・2・6の点です。  「き」の上に始点・終点を付けて「木」  →きへん≠ノもなる。  「な」 「人」  仮名「な」は、1・3の点です。  「な」の上に、始点・終点を付けて「人」  →にんべん≠ノもなる。  「に」 「水」  仮名「に」は、1・2・3の点です。  「に」の上に、始点終点を付けて「水」  →さんずい≠ノもなる。  「も」 「門」  仮名「も」は、2・3・4・5・6の点です。  「も」の上に始点・終点を付けて「門」  →もんがまえ≠ノもなる。  1マスの漢点字は偏や旁、冠や構えなどの部首≠ノもなって、2マスまたは3マスの漢点字を作ります。  「木」はきへん≠ノ、「人」はにんべん≠ノ、「水」はさんずい≠ノ、「門」はもんがまえ≠ノなります。  3. 漢点字は、漢字の組立を反映しています。  《最も多い2マス漢点字。3マスの漢点字もあります》   (以下、点字符号を図示。ここでは、漢点字の始点・終点をのぞいた下6点の仮名読み、または点の番号を、[ ]内に示します。)  「木」を二つ書く「林」は、漢点字でも「木」と「木」で、2マスの漢点字です。  木[キ]+木[キ] = 林[キキ]  「休」(にんべんに木)は、「人」+「木」の2マス漢点字です。  人[ナ]+木[キ] = 休[ナキ]  「閑」(門構えに木)は、「門」+「木」の2マス漢点字です。  門[モ]+木[キ] = 閑[モキ]  「相」(きへんに目)は、「木」+「目」の2マス漢点字です。  木[キ]+目[メ] = 相[キメ]  さんずいに「相」と書いて湘南の「湘」、「湘」は3マスの漢点字です。  水[ニ]+木[キ]+目[メ] = 湘[ニキメ]   《そこでクエスチョン》  Q1 「門」に「人」と書いて何の字? どんな漢点字?  門[モ]+人[ナ] = 閃[モナ](セン、ひらめ‐く)  「門」に「口」、「門」に「日」の字も同様です。  「口」は1・2・4・5(レ)の点に始点・終点、「日」は2・3・6(リ下がり)の点に始点・終点を付けた1マスの漢点字です。  門[モ]+口[レ] = 問[モレ](モン、と‐う)  門[モ]+日[リ下がり] = 間[モ・リ下がり](カン・ケン、あいだ・ま)  Q2 それでは「日」に「目」は何の字? どんな漢点字?  日[リ下がり]+目[メ] = 「冒」(ボウ、おか‐す)  このように、『漢点字』も『漢字』と同様に、基本となる文字を組み合わせて、どんどんその数を増やしていくことができます。以上は最も簡単な組み立ての例ですが、『漢点字では、『漢字』の成り立ちや組み立てを生かすさまざまな工夫や配慮がなされています。      漢点字による点訳  《漢点字は、原本どおりの表記を伝えます。》  視覚障害者の文字として現在広く使われている点字は、6点式の仮名点字です。  仮名点字では仮名文字の他、数字・ファベットといくつかの記号類が用意されていますが、漢字にあたる文字はなく、片仮名と平仮名の区別もしていません。  漢点字では、漢字の他、平仮名・片仮名を区別して、原本どおりの表記を伝えます。  ・ 漢点字には、わかち書き≠ヘありません。  仮名だけで書く仮名点字では、意味をとりやすくするためにマスあけ(わかち書き)の規則を定めています。漢字と仮名を書き分ける漢点字では、わかち書きは不要です。  仮名点字では 「シズカサヤ イワニ シミイル セミノ コエ」  漢点字では 「閑さや岩にしみ入る蝉の声」  ・ 仮名点字の表記は発音に対応し、漢点字の表記は文字に対応しています。  仮名点字では  「オバアサンワ カワエ センタクニ」  「オトーサント トーキョーニ イコー」  「アカイ フーセン」「キューキューシャ」  漢点字では  「おばあさんは川へせんたくに」  「おとうさんと東京に行こう」  「赤い風船」「救急車」  ※ 助詞の「は」「へ」は、仮名点字では発音どおり「ワ」「エ」と書きます。  ※ 「おとうさん」や「風船(ふうせん)」のように、「オー」または「ウー」と伸ばして発音する「う」は、仮名点字では「ー」を使って書きます。  ・ 漢点字では、片仮名と平仮名を区別しています。  仮名点字では  「コッキョーノ ナガイ トンネル」 「ジューキ ネットニ ツイテ」  漢点字では   「国境の長いトンネル」 「住基ネットについて」  ※ 漢点字では片仮名の部分を、片仮名符で囲んで、平仮名と区別しています。片仮名符は、2・3の点です。  ・ 漢字・片仮名・平仮名を書き分けて、固有名詞や同音異義語を正しく伝えます。  仮名点字では  「ヒグチ イチヨー」「キニ ナル キ」  漢点字では  「樋口一葉」「気になる木」  ※ 漢点字は、JIS第1・第2水準の漢字をすべてカバーしています。  (仮名点字には、片仮名と平仮名の区別はありませんが、通例に従いすべて片仮名で書きました。仮名点字の仮名は発音記号のような働きをしていると言えます。)    《「き」と「キ」と「木」の関係は?》  平仮名「き」  2・3・6の点(1マス)  片仮名「キ」  カタカナ符・き・カタカナ符(3マス)  漢字「木」  「き」の上に漢点字の始点終点(1マス)  ※ 仮名点字では、いずれも「き」になります。    《漢点字で書くと…こうなります。》(点字符号で例示)  「ローマの休日」  漢点字 「(カタカナ符)ろーま(カタカナ符)の休日」  背の高い部分(8点)が漢字で、「休[ナキ]」は2マス漢点字、「日[2・3・6]」は1マス漢点字です。  「アメリカは、合衆国です。」  漢点字 「〈カタカナ符〉あめりか〈カタカナ符〉は〈読点〉〈ブランク〉合衆国です〈句点〉」  「合」「衆」「国」は、すべて2マスの漢点字です。  ※ 句読点など記号類の基本的なものは、仮名点字の場合と同じです。  ※ 句読点などの後は、漢点字でもマスあけ(ブランク)を入れます。  このように、すでにある6点の仮名文字や記号などに、8点の漢字を加えることで、日本語の普通の文章(漢字仮名交じり文)≠フ読み書きが、点字でも実現します。  点訳に際しては、漢点字は原本の表記を大切にして、晴眼者と同等のテキストを作ることを目指しています。