5 複合文字 (2)
2.第一基本文字と比較文字で構成される文字 (2)(承前)
前節に続けて、〈第一基本文字〉と〈比較文字〉が部首として構成される文字をご紹介します。
※ 「可  」を部首として含む文字六つ。
(30) 阿  ア おもね‐る
「こざと偏」の右側に「可  」が置かれた形の文字です。小高い丘の意とともに、曲がったところ、山間の谷川の曲がりくねったところ、クマを意味します。その曲がりくねる意から、おもねる≠ニいう訓が生じました。真理を曲げて人に追従する、人の意を迎えて、それにこびへつらうという意味を表します。またア≠ヘ、梵語の最初の音で、「阿吽」とは、世界の始まりと終息、つまり宇宙万物の意味を表しています。地名・人名に、多く用いられる文字です。漢点字では、「 (こざと偏)」と「 (可  )」で表されます。
「阿蘇山」「阿部さん」「曲学阿世」「阿吽の呼吸」
* 「曲学阿世」、真理を曲げて、権力者におもねる意。
(31) 河  カ ガ かわ
「さんずい」の右側に「可  」を置いた形の文字です。旁は、元は蛇行する川の形を象ったものでしたが、現在では、「可  」で表しています。曲がりくねった大河、中国では、黄河を指します。かわ≠フ文字にはもう一つ、「川」がありますが、後にご紹介します。また「江」の字もかわ≠フ意味ですが、揚子江のことで、これも後にご紹介します。漢点字では、「 (さんずい)」と「 (可  )」で表されます。
「河川」「河岸段丘」「黄河」「銀河」「運河」「河原左大臣(かわらのさだいじん)」
* 「河岸段丘」は、大きな川の岸に土砂が堆積して段状にできる丘のことです。「銀河」は、天の川=B「河原左大臣」は、源融(みなもとのとおる)、小倉百人一首に歌が取られています。
・「何  」とそれを部首として含む文字一つ。
(32) 何  カ なに なん な いず‐れ
「人 偏」の右側に「可  」が置かれた形の文字です。元は、人が荷を担いだ形を象った文字でしたが、現在では旁に「可  」を用いています。漢文訓読ではなんぞ≠ニ、疑問や反問の助詞として読まれますが、我が国の口語文のなに≠焉A代名詞として、疑問詞として、広く用いられます。漢点字では、「 (人偏)」と「 (可  )」で表されます。
「何故(なぜ)」「何処(どこ・いずこ)」「何らか」「幾何学(きかがく、数学の一分野)」
(33) 荷  カ に
「草 冠」の下に「何  」が置かれた形の文字です。元は、人が荷を担いだ形を象っていましたが、上の部分が草冠になりました。訓のに≠ヘ、荷物、荷台、初荷、船荷と読まれます。また、茎や花の形から、水生植物のはす≠フ意味にも用いられます。漢点字では、「 (草冠)」と「 (何  )」で表されます。
「荷物」「荷車」「荷台」「荷造り」「荷主」「初荷」「船荷」「薄荷(はっか)」
・「奇  」とそれを部首として含む文字一つ。
(34) 奇  キ く‐しくも
「大  」の下に「可  」が置かれた形の文字です。辞書の〈字統〉によれば、曲がった刀を振って、神様に祈る形を表すとあります。尋常でない、切羽詰まったときの祈りです。くしくも≠ニ読んで、不思議にも、怪しくもの意味を表し、キ≠フ音を頭に付けて、普通でない、人知を超えたという意味の熟語を表します。「奇数」は、二で割り切れない数のことです。漢点字では、「 (大  )」と「 (可  )」で表されます。
「奇異」「奇抜」「奇っ怪な」「奇矯な振る舞い」「奇を衒う」
(35) 寄  キ よ‐る よ‐せる
「ウ 冠」の下に「奇  」が置かれた形の文字です。よる、よせる≠ニ読んで、人が寄り集まる、寄り添って庇い合うという意味を表します。下って、何かの目的で一時的に寄り合って寝起きをともにする、宿を借りて世話になる、物や金銭を贈るなどの意味に用いられるようになりました。漢点字では、「 (ウ冠)」と「 (奇  )」で表されます。
「寄宿舎」「寄食」「寄付金」「寄り合い」「寄せ算」「寄せ書き」「寄せ鍋」 |