「うか」063 トップページへ


  一 言
                    
岡田健嗣

 週刊点字新聞・点字毎日の読者欄に、気になる投稿があった。少し引用してみる。

 「4月からガイドヘルパーの制度が変わり、必要に応じて、各事業所と個人が契約することになった。わたしは最も規模の大きく、いろいろな施設を経営している事業所へ相談したところ要領を得ないので、直接市の福祉課へ連絡した。
 相手は大変横柄で、弱い者に与えるといった態度が見え見えだった。わたしに許された時間は1か月15時間ということであったのに、市役所からは10時間という通知が事業所にきていた。後5時間は私に権利があると粘ると、何に使うのかと使用目的を聞いてきた。『パソコンの勉強に10時間、残りは教会』と答えると、どこの教会かと尋ねる。余計なお世話だと言いたいのを我慢して、教会の名前を言った。
 事業所も、わたしはお願いしているのに、『気に入らなかったら他へ行って下さい』と、随分高飛車な態度に驚いて途方に暮れた。(以下略)」(「読者の広場『美しい日本の貧しい福祉』(静岡県・鈴木みどり氏)」点字毎日・2007/07/01)(本文はカナ点字。漢字仮名交じり並びに読点は引用者。)

 この他にも、一昨年秋に成立して順次施行されている障害者自立支援法の実施情況が知られる投稿が幾つかあった。
 右の投稿にある視覚障害者のガイドヘルプ事業は、地域によってその実施情況に大きな開きがある。静岡では一か月一五時間利用できるという。しかも自由に利用できるのではなく、行く先や用件など細かいチェックがあるという。
 他の地域では、事業所そのものがなく、サービスそのものが提供されないところもある。
 点毎への投稿者の鈴木さんは、「『国が決めることだから仕方がないよね』というつぶやく声を聞き、(中略)卑屈に哀れみを受けるのではなく、権利は堂々と守り、与えられた事柄には感謝する姿勢が欲しい。」(同前)と結んでおられる。
 社会福祉ばかりでなく医療の面にも弱者に厳しい対応が目立っている。
 免疫学者の多田富雄先生は、ご自身の脳梗塞の後遺症に対するリハビリテーション医療が、一昨年の制度改正に伴って停止されたことを例に、一九六〇年代以来推進されて来た厚労省(旧厚生省)のリハビリテーション医療が、大きな転換期を迎えているという警鐘を鳴らしておられる。脳血管障害や外傷などの受傷後のリハビリテーションの質が、その後の人生の質を決めるということは、厚労省が主張し続けて来たことである。ところが今回の医療制度改正では、一定期間(ごく短期間)を過ぎた患者のリハビリテーションは、治療としての効果が期待できないとの理由で、打ち切られることになったという。(多田富雄「厚労省 リハビリ利権は醜い」文藝春秋・2007/07)
 来年度予算でも、社会保障費の大幅削減は至上命題とのことで、社会福祉を担う厚労省はその口にする理念に反して、予算を伴う実施情況の拙劣さとのギャップに目をつむって、見えないものはないものという姿勢を採っているように見える。
 七月二九日に実施された参議院議員選挙で、自民党が大敗し民主党が一人勝ちしたが、その根がどこにあるかが分かるように思われる。選挙での自民党大敗の一つの理由と言われる「格差社会」への不審は、単に所得格差ばかりでなく、地域格差、意識格差まで視野を広げることがなければ、福祉社会は成立しないことを意味しているように思われてならない。

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