「うか」073  トップページへ

   点字から識字までの距離(69)
      新常用漢字表(1)

                         
山内薫(墨田区立あずま図書館)

 文化審議会国語分科会は今年の1月27日、同漢字小委員会がまとめた、今までの常用漢字表に代わる新常用漢字表(仮称)の試案を了承した。平成21年3月16日から4月16日までの期間、文化庁では、この「「新常用漢字表(仮称)」に関する試案」に対する意見募集を実施している。そして来年2010年の2月に文部科学大臣宛に答申することとなっている。今回、追加される漢字は191字、今まで常用漢字表にあって今回削除される漢字が五字(「銑」「錘」「勺」「匁」「脹」)で、合計2131字が候補として上がっている。
 今回の見直しは、パソコンや携帯電話などの情報機器の普及が私たちの漢字使用に大きな影響を与えており、新たな漢字使用の目安が必要であるという基本的な考え方に基づいている。情報機器は「読む行為」よりも「書く行為」を支援する役割が大きく、この書記環境の変化に対応して@読める、A分かる、B書けるという3つの要素で漢字を考え、読めるだけでよい「準常用漢字」という考えも検討されたが、最終的には〈なるべく単純明快な漢字表を作成する〉という考えを優先し、表は1つでいくことになった。今回の追加漢字の中には「鬱」といった難字や「籠」「麓」など筆画数が多い字も入っている。今回の改訂に当たっては、「漢字出現頻度数調査」が、書籍、教科書、新聞、ウェブサイトなどで行われ、「現在使用されている常用漢字のうち2500位以内のものは残す方向」で、「表外漢字で1500位以内のもの(藤・之・誰・伊・俺など)と常用漢字2501位以上のものは基本的に残すが不要なものは落とす方向」で、「表外漢字の2501位から3500位までの漢字は特に必要な漢字だけを拾う」という方針で1字1字が検討された。出現頻度が高い漢字でも、「訓のみあるいは訓中心に使用されているもの(濡・覗など)や人名・地名の固有名詞中心に使われているもの(伊・鴨など)は入れないと判断された。また、今まで外されていた固有名詞の内、都道府県名(「阪」「奈」「岡」「阜」「栃」「茨」「埼」「梨」「媛」「鹿」「熊」)とそれに準じる字(畿・韓など)が例外として追加された。例えば今回削除された「銑」は書籍データの中で常用漢字中最も出現順位が低く、4004位だった。
 また、今回常用漢字の音訓の見直しと追加も行われ、常用漢字の4087(音2187、訓1900)から、新常用漢字では4385(音2352、訓2033)に増える。例えば「私」という漢字には「わたくし」という、「魚」には「うお」という訓しかなかったが、今回「わたし」や「さかな」も追加された。その他、追加された主な訓は「育(はぐく)む」「応(こた)える」「関(かか)わる」「旬(しゅん)」「要(かなめ)」など32例。削除される訓は漱石の「猫」に登場する「疲(つか)らす」など。音では「世界中」とか「町中」と言う時の「中」の音「ジュウ」、「十」も今まで「ジュウ」と「ジッ」だけで、「ジュッ」はなかったが、今回追加されたために、十干十二支も「ジッカンジュウニシ」だけではなく「ジュッカンジュウニシ」とも読めるようになる。
 3月26日、国語施策懇談会が開かれ「新常用漢字表(仮称)」に関する試案について文化審議会の学者らが内容の説明を行った。(2009年3月31日朝日新聞朝刊)そこで、集中した質問は字体の問題で、特に今回追加される漢字「遜」「遡」「謎」に使用される「しんにゅう」が、従来の常用漢字で使われていた「道」などの「しんにゅう」と異なる「二点しんにゅう」であり、なぜ統一できないのかということだった。
 今回の追加文字の字体については「最も頻度高く使用されている字体を採用する。」という方針であり、漢字出現頻度数調査の出現回数で、例えば「「頬」8回対「?」6685回」、「亀」6695回対「龜」4回、1点しんにゅうの「遡」2回対2点しんにゅうの「遡」753回、新字体の「餌」3回対、旧字体の「餌」1377回というように広く用いられている文字を採用したために1点と2点しんにゅうが漢字表の中に混在することになってしまった。しかし食偏の常用漢字にはない「餅」という字が新聞でどのように使用されているかを見るとまったくバラバラだという。あるブログに以下のような記事が載っていた。
「2月6日、赤福餅の販売再開の記事で『もち』の漢字の表記が、新聞各紙夕刊でバラバラでした。と言っても、よく注意しないと気付かないで通り過ぎそうなものなのですが。
(毎日新聞)「餅」(ルビなし)
(読売新聞)「餅」(ルビあり)
(朝日新聞)旧字体の「餠」(ルビなし)
(産経新聞)旧字体の「餠」(ルビあり)
(日経新聞)記事なし
という具合でした。ここからわかることは、
(1)「餅」は常用漢字表に載っていない「表外字」である。
(2)毎日と読売は、簡略字体(新字体)の「餅」を用い、朝日と産経は「正字体」(旧字体)の「餠」を用いている。
(3)旧字体・新字体を問わず、読売と産経は「餅」「餠」は、ルビを振らないと使えない、つまり「表外字」としての扱いをしているが、朝日と毎日は、表外字ではあるがそれぞれの新聞社独自に「ルビがなくても読める漢字」として扱っている。
という点ですかね。
 つまり、「新字体・旧字体」「ルビあり・ルビなし」という二つの基準が、一つの漢字に対して当てはめられているので、これだけばらばらの表記なのでしょうね。」
 このことから新聞社でも、常用漢字表の表外漢字について、それぞれ独自の扱いをしていることが分かる。


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