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   点字から識字までの距離(72)
      著作権法改正(中)

                         
山内薫(墨田区立あずま図書館)

 今回の著作権法の改正は大きく以下の3つの柱で構成されている。
(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置
(2)違法な著作物の流通抑止のための措置
(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置
 この(3)が図書館の障害者サービスに係わるのだが、文化庁のホームページでは次のように現行と改正後の違いについて解説している。
 「技術の進展に伴う障害者による著作物等の利用方法の多様化や障害者の権利に関する条約を巡る状況を踏まえ,障害者の情報格差を解消していくことが求められています。
 このため,今回の改正では,障害者のために権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる範囲を抜本的に見直すこととしました。改正内容は次のとおりです。」として表が掲げられている。表は現行と改正後に分けられそれぞれ次のような解説が付され、特に矢印の後は青い文字で強調されている。
◆視覚障害者関係(第37条第3項)
 障害の種類
(現行)視覚障害者
(改正後) 視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者
⇒発達障害、色覚障害等も対象に
複製等が認められる主体
(現行)点字図書館等の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設(政令指定)
(改正後) 視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者(政令指定)
⇒公共図書館等も指定可能に
認められる行為
(現行)録音図書の作成、録音物の貸出、自動公衆送信
(改正後)視覚障害者等が必要な方式での複製、その複製物の貸出、譲渡、自動公衆送信
⇒拡大図書、デジタル図書等の障害者が必要とする方式で作成が可能に
◆聴覚障害者関係(第37条の2)
著作物の範囲
(現行)放送、有線放送される著作物
(改正後)聴覚で表現が認識される公表著作物
⇒映画も対象に
障害の種類
(現行)聴覚障害者
(改正後)聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある者
⇒発達障害、難聴等も対象に
複製等が認められる主体
(現行)聴覚障害者の福祉の増進を目的とする事業を行う者(政令指定)
(改正後)聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者(政令指定)
⇒ 公共図書館等も指定可能に
認められる行為
(現行)字幕のリアルタイムでの自動公衆送信
(改正後)・聴覚障害者等が必要な方式での複製、自動公衆送信・字幕等を映像に付加して複製・貸出
⇒(1)異時の字幕等の送信が可能に(2)手話等の作成も可能に(3)字幕入映画の貸出が可能に
 以上が今回の著作権法改正の(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置についての文化庁の解説だが、この法案成立にあたって、日本図書館協会は文化庁に対し、以下のような要望書を提出した。
(※は山内のコメント)
1 視覚障害者等のための複製等(法第37条第3項関係)
1.1.法第37条第3項の「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」には、知的障害者、精神障害者、学習障害者などのほかに、肢体障害者、寝たきりの人、入院患者なども含めること。
 また、外国人などで音声としての日本語は理解できるが文章としての日本語は読めない人を含めること。
※実際に録音資料や大きな文字の資料を利用する方は視覚障害者に限らず、以前紹介した学習障害の1つであるディスレクシアの方を始め、広範囲におられることが確認されている。例えばスウェーデンでは精神障害者の方が集中できるという理由から、音声資料をヘッドホーンによって利用した例が報告されているし、墨田区の図書館でも不随意運動のために視点を注視しにくい肢体障害の方が拡大写本を利用したケースがある。また手術後に身体を拘束されていて身動きの取れない方から録音図書の利用希望があったり、学校に行かなかったために漢字を読むことができない方が録音資料を利用したケースがあった。また、文字からの情報摂取がむずかしい外国人など、こうした人が「視覚による表現の認識に障害がある者」に含まれるかどうかは微妙であり、その判断主体を図書館側に委ねてくれればよいが、障害者手帳交付者等という枠組みをはめられてしまうと、利用できる人の範囲は狭まってしまうだろう。
1.2.同項、「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるもの」には、国立国会図書館、公立図書館、学校図書館、大学図書館のほか、公共的な図書館サービスを実施している私立図書館、図書館類縁機関など、一般的に障害者が利用する施設(以下、これらを総称して「図書館」という。)を含めること。
 さらに、障害者用資料の製作の現状から、NPO法人やボランティアグループの中で障害者のためにサービス(製作)を行っている機関に対して配慮すること。
※ここでは「政令で定めるもの」がどの範囲までかということが大きな問題で、国立国会図書館や公立図書館は今のところその範疇に含まれるようだが、学校図書館以下については微妙な状況だ。おそらくNPO法人やボランティアグループは含まれないだろうと思われる。
1.3.同項、「当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式」には、音声化のほか、文字の拡大、テキストデータ、リライト、絵図などの立体化、布の絵本化、映像に音声解説を付けるなど、視覚障害者等が使えるあらゆる方法を含めること。
※必要な方式の中には音声化、文字の拡大、テキストデータまでは含まれるだろうが、例えば知的障害の方のために、やさしく、読みやすくリライトすることまで可能かどうかは難しい。北欧などでは、国が補助を出してシェークスピアの作品を読みやすくしたLLブック(やさしく読める本)を出版しているが、知的障害の方だけではなく日本に在住する日本語を母語としない人などにも読みやすくリライトした本の要望なども勘案する必要があるのではないだろうか。
1.4.同項、「ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第79条の出版権の設定を受けた者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。」に関して、下に掲げた方策等により、現状の障害者への情報提供体制を下回ったり、限定的なサービスしかできなくなってしまうことがないように配慮すること。
(1) 図書館などが製作を開始した後に、「提供又は提示」がされることのないよう、出版社等に情報開示の指導等を行うこと。
(2) 録音資料においては、視覚障害者などがDAISYと同様の便利さで使えるものを必要としており、視覚障害者の要求を満たさない一般の録音資料は「当該方式」から除外すること。
(3) 価格上の問題で、実質的に購入できなくなったり、購入量が減少したりし,結果として障害者への情報提供が阻害されることのないように、原本となる文字資料の価格と比較して適正な価格となるように指導等を行うこと。
※この条項は、つまり音声資料が公に出版されていたり、原本の大活字資料がすでに出版されているような場合には、当該資料の音声化や拡大等はできないというを言っているのだが、テキストを同梱したマルチメディア・DAISY資料などを必要としている利用者がいた場合には、音声資料が出版されているから作成してはならないということにはならない、というような点を確認している。


 
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