「うか」134号 トップページへ | ||
点字から識字までの距離(127) 山 内 薫 |
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障害をめぐる条約や法規の現状(5) 「障害者の権利に関する条約」(4) 前々回ご紹介した障害者権利条約の第9条「施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティー)」の2e「公衆に開放される建物その他の施設の利用の容易さを促進するため、人又は動物による支援及び仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む。)を提供すること。」また、第2条「定義」の中で挙げられている様々な「意思疎通」の方法を実現するために整備された法律が「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法 2022年5月25日公布・施行)である。この法律の第3条では4つの基本理念が挙げられている。 「(基本理念) 第3条 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。 1 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る手段について、可能な限り、その障害の種類及び程度に応じた手段を選択することができるようにすること。 2 全ての障害者が、その日常生活又は社会生活を営んでいる地域にかかわらず等しくその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにすること。 3 障害者が取得する情報について、可能な限り、障害者でない者が取得する情報と同一の内容の情報を障害者でない者と同一の時点において取得することができるようにすること。 4 デジタル社会(デジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号)第2条に規定するデジタル社会をいう。)において、全ての障害者が、高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術の活用を通じ、その必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにすること。」 そして、第13条では 「(障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野に係る施策) 第13条 国及び地方公共団体は、医療、介護、保健、福祉、教育、労働、交通、電気通信、放送、文化芸術、スポーツ、レクリエーション、司法手続その他の障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野において、障害者がその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、障害者とその他の者の意思疎通の支援を行う者(第15条において「意思疎通支援者」という。)の確保、養成及び資質の向上その他の必要な施策を講ずるものとする。」 とあり、そのための施策として「意思疎通支援者」について言及している。第15条では 「(国民の関心及び理解の増進) 第15条 国及び地方公共団体は、障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通の重要性に関する国民の関心と理解を深めるよう、障害者による情報取得等に資する機器等の有用性、障害者による円滑な意思疎通において意思疎通支援者が果たす役割等に関する広報活動及び啓発活動の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。」 と、「情報取得等に資する機器等の有用性」と「障害者による円滑な意思疎通において意思疎通支援者が果たす役割」の2点に言及している。 それでは、具体的に「意思疎通支援者」とはどのような人なのか? 厚生労働省のホームページには障害者福祉関係のページに「障害者の情報・意思疎通支援」があり、そこには5項目の施策が掲載されている。各項目は 「1、意思疎通支援 2、ICTの活用等による意思疎通支援 3、点字図書館及び聴覚障害者情報提供施設の運営 4、視覚障害者等の読書環境の整備(読書バリアフリー)の推進 5、電話リレーサービス」 となっている。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sanka/index.html) このうち「意思疎通支援」については下記のような概要と具体例が示されている。 「聴覚、言語機能、音声機能、視覚、盲ろう、失語、知的、発達、高次脳機能、重度の身体などの障害や難病のため、意思疎通に支障がある障害者等とその他の者の意思疎通を支援するため、手話通訳者、要約筆記者等の派遣や養成等を行います。 支援にあたっては、障害特性に配慮した意思疎通支援のニーズに即して行います。 (意思疎通支援の具体例) ・聴覚障害者:手話通訳、要約筆記 ・視覚障害者:代筆・代読、点訳、音声訳 ・盲ろう者:直接本人に接触する触覚手話、指点字、指文字 ・失語症者:会話における理解や表現の補助(必要に応じて道具や絵の利用等)」 そして付記として 「上記の他にも、意思疎通に支障がある場合があります。 喉頭ガンや咽頭ガンなどによって喉頭を摘出された方(以下、「喉摘者」)は、発声機能を失い、家族をはじめ他者と話すことができなくなります。しかし、食道発声や電気式人工喉頭などの代替音声を習得することで、再び会話ができるようになります。」が加えられている。 具体的な意思疎通支援者としてあげられているのは次のような者である。 「5 意思疎通の支援者 意思疎通の支援者には、厚生労働省令に基づく認定資格に合格した者や、厚生労働省が定める養成カリキュラム等に基づき、地方自治体等において養成された者がいます。 (1)手話通訳士 厚生労働省令に基づく認定を受けた社会福祉法人聴覚障害者情報文化センターが実施する試験に合格し、登録をされた者。政見放送において、手話通訳を担当することが可能。 (2)手話通訳者(※) 手話通訳に必要な手話語彙、手話表現技術及び基本技術を習得している者 (3)手話奉仕員 手話で日常会話を行うのに必要な手話語彙及び手話表現技術を習得している者 (4)要約筆記者(※) 中途失聴者を中心に、難聴者等の多様なニーズに対応する要約筆記を行うのに必要な知識及び技術を習得している者 (5)代筆・代読支援者 視覚に障害のある方のために、本人に代わって書類等の読み書きを行う者 (6)点訳奉仕員 視覚に障害のある方のために、墨字(活字)で書かれている書籍等の内容を点字にして伝える者 (7)音訳奉仕員 視覚に障害のある方のために、墨字(活字)で書かれている書籍等の内容を音声にして伝える者 (8)盲ろう者向け通訳・介助員 盲ろう者との日常的なコミュニケーション、通訳、移動介助を行うに際し、必要な知識及び技術を習得している者 (9)失語症者向け意思疎通支援者 失語症者の多様なニーズや場面に応じた意思疎通支援を行うために必要なコミュニケーション技術を習得している者 ※(2)手話通訳者、(4)要約筆記者は養成研修を受講の上、都道府県等が行う試験に合格する必要があります。」 では実際にこのような意思疎通支援者がどのくらい整備されているかという調査も令和4年度に実施されている。 その「意思疎通支援事業の実施体制整備状況(令和4年度)」によると、令和4年度末時点で意思疎通支援事業の実施体制を有する市区町村の割合は全国で91%(1585/1741)にのぼる。その「実施体制を有する市区町村」とは、事業の実施要綱を整備しており、かつ、障害者等からのサービス利用の申し出があった際に直ちに対応が可能と回答した市区町村をいう。 個々の意思疎通支援事業の実施率は以下のようになっている。(前の数字は実施自治体数、後の数字は全国のパーセンテージ) ・手話通訳者派遣事業(遠隔による手話通訳を除く) 1573、90.4% ・遠隔手話通訳者派遣事業 398、22.9% ・要約筆記者派遣事業(遠隔による要約筆記を除く) 1269、72.9% ・遠隔要約筆記者派遣事業 189、10.9% ・手話通訳者設置事業(遠隔による手話通訳を除く) 691、39.7% ・遠隔手話通訳者設置事業 269、15.5% ・点訳による支援事業 95、5.5% ・代筆による支援事業 75、4.3% ・代読による支援事業 72、4.1% ・音声訳による支援事業 105、6.0% ・盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業 74、4.3% ・失語症者向け意思疎通支援者派遣事業 93、5.3% ・その他の支援事業 86、3.9% ・意思疎通(全体) 1585、91% 調査結果を見ると手話や要約筆記など聴覚障害者向けの支援はかなり進んでいるものの、点訳、代筆・代読、音声訳など視覚障害者向け支援、盲ろう者、失語症者向けの支援や派遣事業は未だにわずかしか行われていないことが分かる。ただしこれらの研修、派遣事業は都道府県単位で行われているものもあり、手話通訳者、要約筆記者の研修は100%、派遣はいずれも93.6%、盲ろう者向け通訳・介助員の研修は97.9%、派遣は100%といずれもほとんどの都道府県が実施している。(「専門性の高い意思疎通支援を行う養成研修事業、専門性の高い意思疎通支援を行う者の派遣事業体制の整備状況」(令和4年度)調査結果)また同じく専門性が高いとされる「失語症者向け意思疎通支援者」は研修事業が87.2%、派遣事業が34.0%となっている。 点訳、代筆・代読、音声訳は専門性の高い意思疎通支援には含まれておらず、研修事業についても派遣事業についても曖昧なまま取り残されている状況といって良いだろう。障害者権利条約が言うように、あらゆる施設での「仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む。)」の提供が望まれる。 |
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