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『うか』100号記念特集号 |
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『常用字解』音訳プロジェクト U 字解音訳「岡田メモ」から始まる字解音訳プロジェクト墨田区在住 藤田教子(ふじた・きょうこ) [藤田様は、東京都墨田区内で、音訳ボランティアとして、図書館を中心に活動しておられます。『常用字解』のDAISY版を作ろうという呼びかけにお応え下さって、2011年から共に活動して下さっておられます。明敏な読解力からのご指摘には、しばしば目を見張る思いがします。] 『常用字解』の音訳は2011年6月にスタートしました。最初、岡田様から、漢点字と字式と字形、漢点字符号、漢字の読み方の統一などのお話がありました。今まで経験してきた一方通行の音訳と違い、漢点字訳の字式と「岡田メモ」という二つの手段が提示され、これからの活動がかなり立体的な取り組みになることにとても新鮮さを感じました。 漢字の読み方の統一は「岡田メモ」を基準にすることが決まりました。「岡田メモ」とは言うまでもなく岡田様が作られた膨大なメモのことです。見出し字は「岡田メモ」で始まり、その項は「岡田メモ」で終わります。本文の解説の中の漢字の説明も「岡田メモ」が使われています。そのようにして、一つの漢字が音訳者ひとりひとりによってまちまちの説明にならないようにするためのものでもあり、「岡田メモ」は重要なツールとなっています。 さらに、見出し字の字形の説明が、本文の解説の前に独立した形で置かれ、漢点字の字式を「岡田メモ」を使って文章化していますが、文字によっては、本文の解説とリンクしてとてもユニークな形になっています。 さて、実際の作業で岡田様に質問することが多く出て参りますが、中でも、字式のない象形文字の字形を端的に説明することは容易ではありません。また、同じ音の漢字がたくさん出てきてしかも意味が違う場合など原本のリズムを壊さないように対応するのはたいへんです。例えば私が担当致しました「放」は、ほぼ次のようになりました。未だ未完とさせていただきます。 「放」 581 1 ホウ・ はなつ・ほうそうのほう 2 漢点字符号 ホケンノホ ヨンゴウロクノテン 3 8画 4 音読 ホウ`旧カナハウ=@ 訓読 はなす はなつ はなれる 細字(ほしいまま) 5 字形 [かた・せいほうけいのほう]の右側に のぶん・うちすえるかたちのぼく 6 金文1 篆文1 7 解説 会意。方(ホウ)( せいほうけいのほう)と攴(`ぼく)( とまた・うちすえるかたちのぼく) 攵(のぶんのぼく) とを組み合わせた形。方(せいほうけいのほう)は横にわたした木に死者をつるした形で、邪悪な霊を祓(`はら)うためのまじないとして境界のところにおいた。攴(とまたのぼく)はうつの意味であるから、方(ホウ)を殴(`う)つ形が(見出し字)放で、邪霊を追放する 追いはらう 儀礼をいう。それで「はなつ、しりぞける、つきはなす、はなす 」の意味となる。 また放縦(`ほうじゅう)(放は見出し字、縦は たて・じゅうおうのじゅう) 気ままなこと。ほしいまま。ほうしょうともよむ 、放漫(ほうまん)(放は見出し字、漫は そぞろ・まんざいのまん)・放慢(ほうまん)(放は見出し字、慢は おこたる・たいまんのまん) 自分勝手なこと のように、「ほしいまま 」の意味にも用いる。白(ハク)(しろい・こくびゃくのはく)はされこうべ 風雨にさらされて白っぽくなった頭蓋骨(`ずがいこつ)の形であるから、されこうべが残っている死者を木につるして殴つ形が[見出し字 放の偏の 正方形の方の上に こくびゃくのはくを乗せた形](`きょう)で、その死者の強い霊の力を殴って刺激することを[見出し字放の偏に黒白の白を乗せた形](`きょう) もとめる といい、邪霊を追放することを求める儀礼である。その儀礼を辺徼(`へんきょう)(辺は あたり・しゅうへんのへん、きょう は[もとめる・へんきょうのきょう・行人偏のみぎがわに[見出し字放の偏の上に黒白の白を乗せた形のキョウ]で行うので徼(`きょう)(辺きょうのきょう) もとめる といい、その儀礼を道路において行うことを邀(`よう)([むかえる]・[ヨウゲキのヨウ]・しんにょうの右にのばしたあしの上に[見出し字の偏の上に黒白の白を乗せた形のキョウ]) むかえる、もとめる といい、その儀礼のとき高く声をあげて責めることを(くち・こうくうのこう の右側に[見出し字放の偏の上に黒白の白を乗せた形のキョウ])(`きょう) さけぶ という。[見出し字放の偏の上に黒白の白を乗せた形のキョウ]にさらにされこうべの形の白(こくびゃくのはく)を加えた[こくびゃくの はく の右側にきょう](`きょう) しろい は、されこうべの色の白さをいう。文章の力で刺激を与えようとするものを 檄(`げき)([ふれぶみ]・[げきぶんのげき]・木へんの右側に[見出し字放の偏の上に黒白の白を乗せた形のキョウ]) ふれぶみ という。 8 用例 「放逸(ほういつ)(逸 は すぐれる・それる・いつざいのいつ )」 ‥‥‥勝手きままにふるまうこと 「放言(ほうげん)(言 は いう・はつげんのげん )」‥‥‥ 無責任な発言をすること。また、その発言 「放逐(ほうちく)(逐 は おう・ちくごやくのちく )」‥‥‥ 追い出すこと 「放流(ほうりゅう)(流 は ながれる・すいりゅうのりゅう)」‥‥‥ せきとめていた水などを、はなち流すこと。また、稚魚を川などに放すこと 「開放(かいほう)(開 は ひらく・かいへいのかい )」 ‥‥‥戸などを開けはなすこと。また、制限を解いて、出入りを自由にすること 9 はなつ・ほうそうのほう 終わり なんとも恐ろしい光景が浮かんできますが、漢字とは、このような「儀礼」と結びついていたことを忘れてはならないという畏敬の念さえ覚えます。私は「放」の字に大変驚かされました。こんなに分解されて発展する展開があることは全く驚きです。この解説の中に「白」が初めて出てきたとき私は「しろ」と読みました。すると、ブライユの平井様から、「それは『ハク』ではないでしょうか。」というご指摘を頂きました。そうなのです。そこは「ハク」でなければならないのでした。思い込みは要注意です。 このようにして『常用字解』の音訳は進行していますが、『うか』でもたびたび紹介されています。それで此の度、実際にその音訳に携わっている立場から、今、どのように進行しているかということのご報告をさせて頂くべきではないかと思い、寄稿させていただくことに致しました 私はこの会合の初回で初めて岡田様と木村多恵子様にお会い致しました。特に同じ墨田区にお住まいになられて『うか』でいつも心に残る美しいエッセイを書いていらっしゃる木村様にお近づきになれましたことは大変嬉しいです。また、MLに添付ファイルが届かなくて木下様に大変お世話になりました。有難うございました。この会合に参加して『常用字解』と深く接することになり、改めて漢字の世界に身を置いていることをありがたく思います。すでに三年が経過し、また完成するまでどのくらいの月日が必要とされるでしょうか。 音訳とはどういうものか。どうあるべきか。真の能動的読書は音訳書で可能なのだろうか。そのようなことを考えながらひとつのものを作って行く月日はかけがえのないものに思われます。そのためのエネルギーを失いたくはありません。 最後になりましたが、『うか』第100号おめでとうございます。 平成26年9月4日 |
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