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『うか』100号記念特集号

『常用字解』音訳プロジェクト T

              字解音訳プロジェクト


                      NPO法人 音訳・朗読の会 ブライユ、国立市在住
                                 平井任子(ひらい・たかこ)

[平井様は、音訳活動を行っておられますNPO法人「ブライユ」を主催しておられます。『常用字解』のDAISY版を作ろうという呼びかけにお応え下さって、2011年からご一緒に活動して下さっておられます。法人格を持った大きな組織を束ねておられますこともあって、最も多くの文字をご担当下さっておられます。岡田との連絡も、全て平井様の手を通して行っておりますので、ご苦労も計り知れません。お付き合いの進行に連れて、その信頼の厚さを感じております。]

 『うか』100号記念、おめでとうございます。
 全国音訳ボランティアネットワークの総会に挿入されていたチラシに「『字解』を読もう」の募集を見つけて、ピンとひらめくものがあり、ドキドキしたのを覚えています。いいものみつけた、嬉しいような、よし!というような感情が湧いてきました。年間100タイトルのDAISY図書を作成していて忙しいかもしれないけれど、「ブライユ」の取り組みとして全員で取り組めるという確信も感じました。
 先ずは、『字解』を購入してみました。すぐ目に飛び込んできたのが、甲骨、金文、篆文などの文字の形。これを音訳しなければならないのか…。少し引けてしまいましたが、なんとかなるさ、とさっそく30数名の会員にメールで流したところ、全員が「やりがいのあることだと思う」という答えが帰ってきました。
 2011年6月29日、初めての打ち合わせにもっとたくさんの方たちが集まると思っていたのですが、意外に少ないので心配になりました。でも、そこはコツコツが取り柄の音訳者。出来不出来はさておき、ときには岡田様と丁々発止のやりとり(そういうとき、高め合っていくことの素晴らしさ、一種の感激すら覚えます)や、メール交換で意見を言い合いながら、なんとか現在まで続けて来られました。
 漢字の難解さに、ときには『常用字解』をほっぽり出したい衝動に駆られることもありました。あまりにも理解が出来ない自分のもどかしさを思ってのことですが、岡田様や羽化の会の方々は、もっともっと歯がゆさを感じていらっしゃるだろう、と気を取り直して…の繰り返しでした。一種、自分との闘いでした。20年ぐらい前から「漢点字」があることは知っていましたが、その本元に飛び込むことになろうとは…。
 岡田様の「漢点字の散歩」を読んで衝撃を受けました。音訳をしたものを聴読して、かな点字を触読して、それを読書といえるのか。そこには「漢字」は存在しない、とおっしゃることに、はじめは何のことだか分かりませんでしたが、そのうち私の心の中に巨大な岩がずっしりと重くのしかかってきました。衝撃的でした。そしてブライユ全員に読んで貰いました。それまでは一進一退の文章化に、ときにブーイングが起きることもあったのですが、ピタッとそれは止みました。取り組む姿勢が変わってきたように思います。
 再々度の見直しは必要ですが、やっと少しずつ録音に入っていける時期に来たのでしょうか。読みの速度も声質も違う多人数での録音はどうなるかと、ブライユの会員に添削済みの2文字の試聴用DAISYを作製して校正をしていますが、如何に聴きやすい音訳にするかということがこれから先の課題です。まだまだ文章化で変更がある一方、同時進行が求められて行くと思います。やっとここまで辿り着いたという思いと同時に、情熱だけでは解決できない“時間”との闘いがまだまだ続きます。
 ブライユは3つの支部があります。それぞれ勉強会の日にちが違い、全員が顔を合わせるのは総会や研修会(年に1、2回)くらいですが、常用字解の音訳のおかげで行き来が活発になり、ブライユが一体になった、という感が強くなりました。視覚障害者のために、というよりブライユのためにこのプロジェクトに参加できて心から良かったと思っています。プロジェクトの皆様、完成版を見届けるまで元気でいましょう。

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