「うか」073  トップページへ

    一 言
                    
岡田健嗣

 前号では、昨年(2008年)11月末に起きた、上方落語の落語家・笑福亭伯鶴さんが、駅のホームと電車の間に挟まれて重傷を負ったことを考えて見た。伯鶴さんの怪我は脳挫傷と両足の骨折だった。全国の視覚障害者と支持して下さっている社会に、大きな衝撃を与えた。幸い伯鶴さんの回復は速く、現在はリハビリテーションの段階に入っているという。高座への復帰を待つ声も高い。
 私は2005年に、身体障害者自立支援法に基づく、障害者の外出支援を事業とする会社を起した。
 現在でも全国的には、サービス内容の地域差があるようだが、自立支援法以前は国の基準がなく、各地域が独自の基準を設けて、事業所に委嘱するなり、事業所を設置するなり、ボランティア活動に委ねるなりして、外出を支援していた。
 現在の自立支援法が万全とはとても言えないが、全国に一律の基準を示したのは、一つの評価に値すると私は考える。というのは、それまでの各地域での活動が、障害者の外出のニーズに応える形で進められたのが、それがさらなるニーズを掘り起こすことになって、地域間の格差が広がったことと、ニーズの内容が切実でとても放っては置けないものでありながら、社会のあり方が、狭い地域の相互扶助では支えきれなくなって来たことなど、社会が考えなければならないことが、ますます大きくなっているように見えるからである。
 私が外出支援のサービスを受けるようになったのは、さほど前ではない。現在公的な外出支援として受けているサービスは、十数年前までは、役所・通院・金融機関・買い物と、だいたい母に同行してもらっていた。まだ母の足が、しっかりしていたからである。
 その他の用件は、1人で出かけて行くか、ご一緒していただける方があれば、その方にお願いするかであった。社会に出たころは、1人で行動するのが当然と考えていたし、その責任は、自由の別名とさえ考えていたのである。
 母の同行に頼っていたというのも、実は多くは、行動ではなく、行った先の用件によってであった。病院では誰かの手を煩わさなければ、診察も処置も受けられない。役所や金融機関では手続きの大半が書類の解読と記入である。買い物は、品物の見分けである。つまり視力なしでは果たせない用件なのである。そこで1人で行っても何とかなると判断できれば、母に同行を頼まずに、1人で出かけた。
 よく視覚障害者の1人歩きは、頭の中に地図を書くことから始まると言う。確かにそれは間違いではないようだが、その前に、実際に動いた道順を、頭の中に地図として描けるかが大事な要件に思える。自分の身体の動きをなぞって見る。聴覚や触覚からの情報から、どう動いて来たかを再認して見る。知っている道を、身体の動きとして頭に浮かぶようになれば、人から聞いた情報から、地図が描けるようになったと言ってよいようだ。そして人から得た情報を頭の中になぞって見て、その通りに身体が動けば、目的地へちゃんと到達できるのである。
 私の20代・30代は、だいたいうまく行った。だが前号でも述べたように、いつもうまく行く訳ではなかった。ホームから落ちたり、電柱にぶつかったり、止まっているトラックの荷台の後ろに顔をぶつけて歯を折ったりもした。
 話はもとへ戻る。
 私が障害者の外出支援に手を染めるについては、右のようなことが、徐々に困難になって来たという現実がある。私自身の能力の減退と、母の高齢化である。しかし外出へのニーズは、ますます大きくなる。
 現在行われている公的支援としての外出サービスは、私が母の厄介になっていた範囲を超えない。せいぜいリクリエーションがプラスされる程度である。自立支援と言いながら、職業に関わる外出、通学、営利目的の外出には利用できない。伯鶴さんの事故を考えると、この辺りが最も大きな要点のように思える。
 鉄道を安全に乗降するために、以前より障害者が利用しているサービスがある。それは駅の職員の手を借りて安全をはかるというものである。車椅子使用者の方々が、駅員の手を借りている様子は、案外よく見かける。が視覚障害者はどうだろうか?私自身は、駅員から声をかけられてお世話になったことは何度かあるが、積極的にお願いした経験はない。
 そこで鉄道会社の数社に、どのような対応をしているか尋ねてみた。
 尋ねたのは、JR、東急電鉄、京浜急行電鉄、横浜市営地下鉄、京成電鉄、東京メトロの6社である。京急と京成は、私が日常的に利用している電車である。
 ここで際だって相違を見せたのが、JRと他の鉄道会社の対応である。JR以外の会社では、「最寄りの駅で声をかけていただければ、ホームでの乗降や乗り換えなどの誘導を行います。予め利用の駅に電話連絡していただければ、お待たせの時間も短くなります。」という答えであった。案内に電話をすれば、利用駅の電話番号も教えてもらえるとのことだ。
 JRではどうか?
 JRに電話をしようと電話番号を調べようとして、先ず驚いた。104番に問い合わせると、各駅の電話番号は登録されておらず、案内だけがあるとのことだった。その案内に電話をしても、先方が出るまでに、長いこと待たされた。
 用件を述べると、「1日以上前に、この案内に電話をして欲しい。そこで乗降・乗り換えの駅とその時間を申し込んで欲しい。」と答えられた。これは全国どこからでも同じだという。JRでは、乗りたい駅、乗りたい電車、乗り換えあるいは降りたい駅を事前に決めてから申し込むようにというのである。
 JR以外は地域の鉄道で、日常的な足として乗降している。JRは、新幹線をはじめ遠距離を運行していて、山手線、京浜東北線など、日常の足として乗降する電車も運行している。がどうやら駅員の手を借りるには、遠距離運行を利用するのと同じ考えで乗降しなければならないようだ。
 このようなサービスを、より身近に利用するには、どうすればよいか、私も考えて見たい。
 案内の電話番号:
 JR 050-2016-1600、1602
 東急電鉄 03-3477-0109
 京急電鉄 03-5789-8686
 横浜市営地下鉄 045-664-2525
 京成電鉄 03-3831-0131
 東京メトロ 03-3941-2004

 
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