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漢点字講習用テキスト
初級編 第26回
    4  基本文字(3)… 比較文字

 比較文字の近似文字

 (1)  斥   セキ  しりぞ‐ける うかが‐う
 「斤 」の〈近似文字〉です。「斤 」の右側の縦の線に、小さな点を加えた形です。おので断ち割る意味があります。「斥力、排斥」と用いてしりぞける≠フ意味を、「斥候」(軍隊の行軍で、先を見る役目)と用いて、うかがう≠フ意味を表します。漢点字では、「 」で表されます。
 「斥力」「斥候」「排斥」「除斥」

 (2)  丘   キュウ  おか
 「升 」の〈近似文字〉です。土地の盛り上がった小さな山のことです。元は、天辺が窪んだ、盆地の意味がありました。また古くは、土を高く盛り上げた墓も指しました。漢点字では、「 」で表されます。
 「丘陵」「墳丘」「段丘」


 比較文字に類似した文字
 ここでご紹介する文字は、〈比較文字〉ではありませんが、墨字の字形に共通する所があったり、漢点字の字形が指事的であったり、〈比較文字〉と性格を共有する文字です。
 ここでは、二組・四文字をご紹介します。

 ※「乗」と「垂」。
 *この二つの文字は、原字は異なりますが、常用漢字では、上の部分が同じ形をしています。下に、「乗」では「木」が、「垂」では「土」が置かれます。
 (1)  乗   ジョウ  の‐る の‐せる
 この文字の上の部分は、人が足を交差させて踏ん張っている形を象っていると言われます。その下に、「木」を置いた形です。のる、のせる≠ニは、人が乗り物や馬にのることです。のせる≠ニ読んで、人をその気にさせること、じょうずる≠ニ読んで、弱みにつけ込む意味にも用いられます。また、計算の方法、かけ算≠フ意味も表します。同じ数を上へ上へと積み重ねて行く、その計算法を言います。漢点字では、天辺のカタカナの「ノ」の形を「」で、「木」を「」で表します。
 「乗車」「乗降客」「乗馬」「乗用車」「加減乗除」「二の二乗は四」「乗合馬車」「馬乗り」「乗っ取る」

 (2)  垂   スイ  た‐れる た‐らす
 「乗 」の上の部分の下に「土」を置いた形の文字です。上の部分は「乗 」とは異なって、穀物の穂が実って垂れた形を表しています。たれる、たらす≠ニ読んで、上から下へものが垂れ下がる、上から下へ真っ直ぐに垂れる、液体が垂れ落ちる、上から下へ下賜する、申し伝える等の意味があります。漢点字では、「 」で表されます。
 「垂直」「枝垂れ桜」「雨垂れ」「虫垂炎」

 ※「浮」と「沈」。
 *この二文字も〈比較文字〉ではありませんが、意味の上と漢点字の符号から、グループとして理解されます。
 (3)  浮   フ  う‐く う
‐かぶ う‐かべる
 「さんずい」の右側にカタカナの「ノ、ツ」、その下に「子」を置いた形の文字です。カタカナの「ノ、ツ」とその下の「子」は、手で卵を育んで孵す形を表しています。そっと卵を抱える形から、水の上を漂うという意味が生じました。水の上の浮き草のように、空の雲のように、当てもなく漂っている様子を表しています。漢点字では、「 」で表されます。
 「浮漂」「浮動票」「浮き世」「浮き草」「浮き雲」「浮き輪」

 (4)  沈   チン  しず‐む しず‐める
 「さんずい」の右側に、「人」が置かれて、その首の辺りに、ワ冠を配した形の文字です。古く、牛を犠牲にして、水に沈めたことに由来した文字です。しずむ、しずめる≠ヘ、水に沈める、心静かにものを思う、心が浮かないという意味に用いられます。漢点字では、「 」で表されます。
 「沈黙」「沈思黙考」「沈潜」「沈鬱」「沈殿」「沈没」「浮沈」
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