漢点字の散歩 (15) 岡田健嗣 |
5 点 字
本稿では、〈点字〉をご存じない皆様も、点字をパターンとしてお受け止めいただければ充分です。点字で何が書かれているかを読み取る必要はありません。 |
2. ドイツ語点字(3)
* 本稿では、ドイツ語の点字表記をご紹介するのだが、ドイツ語の表記について、二つの約束事を決めておきたい。1つは、"a・ o・ u"のウムラウト(変音)である。通常タイプライターではeを後置して表すので、ここでもそれに倣う。従って"ae・
aeu・ oe・ ue"という表記になる。またドイツ語では"sz"を1文字で表すが、通常タイプライターでは"B"を代用して当てる。しかし本稿では本来の"B"との混同を避けるために、"β"を使用する。従って"β"が現れたときは、"sz"と読み替えていただきたい。
前回は、ドイツ語点字の略字のうち、最も基本的な「音節略字」と、語頭部のみに使用される「前綴り略字」をご紹介した。
ドイツ語では、単語の語頭部の綴りを「前綴り」、語幹部を「中綴り」、語尾部を「後綴り」と呼ぶ。音節略字は単語のどの位置にも用いられるが、語頭部、あるいは語尾部にのみ用いられる略字がある。これらは「前綴り略字」、「後綴り略字」と呼ばれるが、ドイツ語点字ではこれ以降、1つの点字符号の重用が認められる。(前回の拙文をご参照下さい。)
D後綴り略字
ドイツ語には、格変化語尾や活用語尾の他に、数多くの語尾がある。これらを一括して「後綴り」と呼ぶ。ドイツ語点字では、この後綴りを略字化して、「後綴り略字」として用いる。これは3つのグループに分けられる。(綴り、略字、事例の順)
後綴り略字グループ1
haft hf glbhf(glaubhaft) tlhf(teilhaftig)
heit h h(einheit) hc(einheiten) frh(freiheit)frhsdrg(freiheitsdrang)
keit k frdk(freudigkeit) hk(einheitlichkeit) lubkc(lustbarkeiten)
nis x bx(ergebnis) hmxse(geheimnisse) bxlosk(ergebnislosigkeit)
sam (einsam) c(vereinsamen) gr k(grausamkeit)
schaft brg(buergschaft) kdc(kundschaften) brgs (buergschaftsschein)
ung u f u(forschung) fduc(forderungen) f us bxse(forschungsergebnisse)
後綴り略字のグループ1は、使用に制限がない。自在に語幹に接続したり、略字と略字を接続したりすることができる。
後綴り略字グループ2
falls f k f(keinesfalls) ebcf(ebenfalls)
mal m m(einmal) drm(dreimal)
waerts w abw(abwaerts) w(einwaerts) ldw(landeinwaerts)
後綴り略字のグループ2は、その後ろに綴りを続けることはできない。その場合は略字を解消しなければならない。"m"は、"m"として語尾"malig"、"ms"として語尾"mals"と用いることができる。また"formal, normal, dezimal"には、"m"を使用できず、綴り字通りに書かれなければならない。(詳細は解説書参照。)
後綴り略字グループ3
ation n nn(Nation) rnal(rational)
ativ v ryv(relativ) suplve(superlative)
ismus i hum i(humanismus) gi(organismus)
istisch hum (humanistisch) tru (altrungistisch)
itaet ivs (universitaet) ntr (neutralitaet)
ion j pcsj(pension) j (union) sektjc(sektionen)
後綴り略字のグループ3は、外来語の語尾として用いられる。後ろに語尾や他の語が接続することもできる。
後綴りは、ドイツ語にとって、語の性格を決める大きな要素である。"haft, sam"は形容詞を、"heit, keit, nis, schaft, ung"は動詞の語幹についたり名詞に付いたりして、女性名詞を作る語尾である。またそれぞれに接続する語や語幹、語尾にも選択制がある。グループ1の略字はその意味で、ドイツ語元来の原則に従って使用することができるし、グループ3の略字も、同様に用いられる。
E1マス略字
「1マス略字」とは、単語あるいは語幹を1マスで表す略字である。1マスの点字符号で表されるのは、アルファベット、拡張アルファベット、文章記号に加えて、音節略字であった。先の「前綴り略字と「後綴り略字」の項でご紹介したように、さらに1つの点字符号を、多重化して使用することになる。
ドイツ語の単語には、語尾や他の語との接続はなく独立して用いられるものと、語尾を取ったり他の語と接続するものとに大別できる。その数は後者が圧倒的に多いが、文章中では要所要所を前者が占めるのである。そこで1マス略字は、3つのグループに分けて使用される。
点字符号、単語の順にご紹介する。
1マス略字グループ1
c sich d das e den j jetzt k kann l laeβt m man o oder r der s sie w was daβ ist als schon um ihm des im auch die ich
以上の22個の点字符号が、グループ1の1マス略字である。これらは前述の通り、語尾変化や他の語との接続がない。従ってこれらの後ろに続くのは、句読符号や文章符号に限られる。
1マス略字グループ2
a aber b bei f fuer g gegen n nicht p so q voll t mit u und v von x immer z zu gewesen dem auf wie durch ueber unter vor mehr war
以上の22個の点字符号が、グループ2の1マス略字である。これらは単独に単語として用いられるとともに、分離動詞やその他の複合語の要素ともなる。その場合、これらの点字符号が1マス略字であることが、触読者に知られなければならない。そこで、その点字符号が1マス略字であることを宣言する符号である「告知符号(二の点)(Akp.)」(Ankuendigungspunkt)が前置される。告知符号(Akp.)は、このグループ1の1マス略字と他の文字や略字とを区別するために用いられる符号であるので、グループ2の略字が複合語の先頭と2つ目に続けて配置される場合は、先頭の略字に前置される必要はない。ただし1マス略字が先頭から2つ並ぶ場合でも、"mehr・
unter"の2つの略字が先頭にあるときは、句読符号などとの混同を避けるために、この告知符号(Akp. 2の点)を前置する。例:
fs (fuersorge) b c(beistehen) pgar(sogar) ttlc(mitteilen) h (hindurch) h (herueber) g(entgegen) glc(entgegeneilen) nu(vernichtung) tztlc(mitzuteilen) p (sowie) z (zudem) bz c(beizustehen) h(mehrheit) ms(mehrmals) wd(mehraufwand) zt c(unterzutauchen) dnu(unterordnung) dnu(unordnung) qcdet(unvollendet) her(vorher)
単語"q(voll)"と"(war)"は、しばしば変音(umlaut)する。この場合は、「変音符号(5の点)」を前置して表す。例:
q(voellig) qe(uebervoelle) e(waere) c(waeren)
1マス略字グループ3
h hatt haett i ihr y welch sein
以上の5つの点字符号が、グループ3の1マス略字である。これらはそのまま格変化語尾や活用語尾を取ることができる。例:
he(hatte) hc(hatten) he(hattest) e(haette) c(haetten) e(haettest) ie(ihre) i(ihrem) i(ihres) ye(welche) y(welcher) y(welches) e(seine) c(seinen) (seines)
以上1マスで単語と語幹を表す略字を3つのグループに分けてご紹介したが、ドイツ語の特徴である格変化とそれに伴う活用を略字で表すには、これだけでは如何にも少ない。ここで言うグループ3と同様の働きをする略字が、さらに必要と考えられた。
Fコンマ略字と語幹略字
a.コンマ略字
1マス略字のグループ1は、単独の単語を表す点字符号である。グループ2は、複合語の要素となる単語を表す点字符号である。グループ3は、格変化語尾や活用語尾を伴う語幹略字である。グループ2が複合語の要素となる場合、1マス略字であることを予め示しておく必要がある。そこで「告知符号(Akp. 二の点)」が前置される。
以下にご紹介する略字は、1マス略字のグループ1と3、そして単語でもある音節略字の幾つかに、「告知符号(Akp. 2の点)」を前置するものである。これらは全てグループ3と同様に、格変化語尾や活用語尾を伴う「語幹略字」である。「1マス略字グループ1」と、しっかり区別される必要がある。そこで前置される点字符号(2の点)が「コンマ」と同じ符号であるところから、この略字は「コンマ略字」と呼ばれる。以下のご紹介では、同じ点字符号の1マス略字と比較できるよう、括弧内に1マス略字も示した。
コンマ略字(括弧内は、1マス略字)
d duerf(d das) e setz(e den) h hab(h hatt) i sitz(i ihr) k koenn(k kann) l laβ・ lass(l laeβt) m mueβ・ muess(m man) o woll(o oder) r fahr(r der) s soll(s sie) w werd(w was) y stell(y welch) sprech( daβ) stand( ist) weis( als) schrieb( schon) einander( ein) ander( er) moeg( sein) brauch( auch) spiel( die) richt( ich) interess( in)
以上の23個の点字符号が、コンマ略字である。この中の幾つかは、母音が変音(ウムラウト)する。その場合、1マス略字のグループ3に倣って、(2の点)の代わりに(五の点)を前置して表す。
変音コンマ略字
l laeβ・ laess r faehr staend aender braeuch
これらのコンマ略字は語幹略字であるので、格変化語尾、あるいは活用語尾が接続される。またこれらは複合語も作る。そんな場合は、1マス略字のグループ2の原則に沿って扱われる。例:
ec(setzen) it(sitzt) k(koennte) dtc(duerften) cd (spielend) t(braucht) yc(bestellen) (anstand) c(verspechen) c(ausrichten) dx(beduerfnis) itum(besitztum) (verbraucher) ru(erfahrung) wegg(werdegang) plan(spielplan) r(gefaehrte) (bestaendig) (gebraeuchloch) uc(veraenderungen) g (gegenstand) byc(beistellen) t (miteinander) rc(durchfahren) c(unterschrieben) v (mehrverbrauch) g e(gegenstaende) r(durchfaehrst) e(unterstaende)
b.変化語尾を伴う1マス語幹略字
以下にご紹介する1マス略字は、変化語尾、あるいは後綴りを伴う語幹略字である。この点字符号の多くが1マス略字に属しているので、比較のために括弧内にそれを示す。
変化語尾を伴う1マス語幹略字
a all(aber) ae(alle) a(allem) ac(allen) a(aller) a(alles) a(allein) acf(allenfalls) adgs(allerdings) aesamt(allesamt) aem(allemal)
besonder(be) e(besondere) (besonderem) c(besonderen) (besonderer) (besonderes) s(besenders) h(besonderheit) se(insbesondere)
dies(die) e(diese) (diesem) c(diesen) (dieser) (dieses) hb(dieserhalb) m(diesmal) m(diesmalig)
moecht(durch) e(moechte) c(moechten) e(moechtest) et(moechtet) e(vermoechte) c(vermoechten)
u wurd(und) ue(wurde) uc(wurden) ue(wurdest) uet(wurdet)
wuerd(ueber) e(wuerde) c(wuerden) e(wuerdest) et(wuerdet) elos(wuerdelos) eq(wuerdevoll)
以上の6個のうち5個の1マス語幹略字は、変化語尾、あるいは後綴りを取らなければ、1マス略字を表す点字符号である。も、音節略字"be"である。ここに見るようにこれらは、ドイツ語の文章にとって極めて重要な位置を占める語である。点字符号の機能の重層化は、それだけ略字化すべき語の多さを物語っているのだが、それだけにこの体系をマスターできれば、ドイツ語の点訳書を、自在に読みこなす可能性を指示しているものなのであろう。
c."jenig"と"selb"
"jenig"と"selb"は、定冠詞と結合して、前者は「他ならぬその」、後者は「と結局同じこと」という意味の複合語を作る。
j jenig rje(derjenige) je(diejenige) dje(dasjenige) rjc(derjenigen) jc(diejenigen) jc(desjenigen) jc(demjenigen)ejc(denjenigen)
s selb rse(derselbe) se(dieselbe) dse(dasselbe) sc(desselben) sc(demselben) esc(denselben) rse(derselbige) se(dieselbige) dsc(dasselbigen) se(desselbige) sc(demselbigen)
以上は、定冠詞とともに複合語を作る語の略字である。これらはそのまま単語として理解すればよい。
("Leitfaden der Blindenvollschrift" und "Kurzschrift" 1973 Blindenstudienanstalt Marburg Lahn)
(続く)
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