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漢点字の散歩(16)
                    岡田 健嗣

本稿では、〈点字〉をご存じない皆様も、点字をパターンとしてお受け止めいただければ充分です。点字で何が書かれているかを読み取る必要はありません。

   5  点 字
 2. ドイツ語点字(4)
 * 本稿では、ドイツ語の点字表記をご紹介するのだが、ドイツ語の表記について、二つの約束事を決めておきたい。1つは、"a・ o・ u"のウムラウト(変音)である。通常タイプライターではeを後置して表すので、ここでもそれに倣う。従って"ae・ aeu・ oe・ ue"という表記になる。またドイツ語では"sz"を1文字で表すが、通常タイプライターでは"B"を代用して当てる。しかし本稿では本来の"B"との混同を避けるために、"β"を使用する。従って"β"が現れたときは、"sz"と読み替えていただきたい。

 本稿・前3回において、ドイツ語点字の表記法をご紹介して来たが、その骨組みはほぼ出尽くしたものと思われる。と言うのは、残る略字は「2マス略字」と呼ばれて、単語と語幹を2つの点字符号で表そうというものである。そこに使用される点字符号は、その単語や語幹を構成するアルファベット、拡張アルファベット及び音節略字である。ドイツ語の文章を点字で表記すると、この2マス略字が存在感を発揮するが、その数は150余りに過ぎない。単語・語幹を網羅することはできない。つまり文章を構成する本当の主役は、依然としてアルファベットと拡張アルファベット、並びに音節略字なのである。言い換えれば、文章はアルファベット、拡張アルファベット、音節略字で綴られていて、その合間に他の略字が現れると見るのが正しい。従って、文章を触読する中で、これらの区別に、決して混乱があってはならない。アルファベット、拡張アルファベット、音節略字で構成された単語・語幹と、略字で表された単語・語幹とが、誤りなく、即時に触知される構成である必要があるのである。
 そこで今回は、これまでのご紹介を振り返ることから始めたい。


 a.アルファベットと拡張アルファベット
 一般にアルファベットは26文字であると言われる。しかしこんなのもあってよいのではないかと思われるものもある。英語で言えば、hが後ろに来る“ch、gh、sh、th、wh”などである。ドイツ語では墨字でも“sz”を“β”の一文字で表して、点字符号では“”が当てられる。また、母音“a、o、u”の変音(ウムラウト)もそれぞれ“ae、oe、ue”の点字符号が当てられる。ドイツ語の点字にはそれに加えて、子音の“ch、sch、st”と重母音の“au、aeu、ei、eu、ie”の八個を一つの点字符号で表すことにして、アルファベットと同様に使用することにした。本稿ではこれらを「拡張アルファベット」と呼ぶことにした。このアルファベット、拡張アルファベットを加えると、計38文字となる。このような拡張アルファベットは、英語点字では略字に含まれるが、ドイツ語点字では、略字ではなく、アルファベットの範疇に数えられる。

 b.音節略字
 略字の中で最も基本的なものがこの「音節略字」である。

ach  al  an  ar  be  ck  eh  ein  el‘y’  em  en‘c’  er  es  ge  ich  ig  in  lich  ll‘q’  mm‘x’  or  te  un

 ドイツ語では単語を3つの部分に分けて、その音を「語頭音、語中音、語末音」と呼ぶ。ここに挙げた音節略字は、点字符号の“lower4”と“right3”を含んでいる。これらは一義的には句読符号や点字特有の指示符号として用いられるものである。そこで音節符号とその他の符号との混同を避ける目的で、音節符号として使用される場合は、語頭音あるいは語末音には用いられないか、あるいは語中音のみに使用されるという規定が設けられている。またドイツ語の現代表記では使用頻度の少ない文字“c、q、x、y”が、それぞれ“en、ll、mm、el”を表す略字として使用されることも特記されてよい。
 さらにこの音節略字の多くは、アルファベット及び拡張アルファベットと同様に扱われて、1マス略字として、あるいは2マス略字を構成する符号として使用される。その意味ではこれらを「拡張アルファベット」に含めてもよいのかもしれない。しかしアルファベットは「音素」であることや、語に占める位置によって使用に制限があることなどから、アルファベットとは隔てられて扱われるのであろう。

 c.前綴りと後綴り
 ドイツ語の単語には語幹の前後にその語を性格づける音が付くことがある。前の綴りを「前綴り」、後の綴りを「後綴り」と呼ぶ。この前綴りと後綴りを略字化した点字符号が、「前綴り略字」と「後綴り略字」である。

前綴り略字:
aus、  ent、  ex、x  pro、q  ver、

 これらの点字符号が語頭にある時は、それぞれの綴りの略字となる。

 後綴り略字は、3つのグループに分けられる。(詳細は前号をご参照下さい。)

後綴り略字グループ1
haft、hf  heit、h  keit、k  nis、x  sam、  schaft、  ung、u

後綴り略字グループ2
falls、f  mal、m  waerts、w

後綴り略字グループ3
ation、n  ativ、v  ismus、i  istisch、   itaet、   ion、j

 これらの点字符号が語幹に続いて、あるいは他の後綴り略字に続いてある場合は、それぞれの綴りの略字となる。

 d.1マス略字とコンマ略字、及び語幹略字
 (略字の数が多数に及ぶので、ここでは例示は省略する。詳細は前号をご参照下さい。)
 1マス略字:
 1マス略字は、単語あるいは語幹を1マスの点字符号で表す略字である。
 ドイツ語の単語は、定冠詞や前置詞や副詞のように語尾の変化のないものや、複合語を形成しないものと、格変化や活用などで盛んに語尾変化するものや、大いに複合語の要素となるものがある。そこでこの1マス略字を3つのグループに分ける。
 第1のグループは、独立した語としてのみ働く単語を表すもので、例えば“r(der)、s(sie)、(die)”などがある。
 第2のグループは、盛んに複合語の要素となる語を表す。例えば“b(bei)、q(voll)、(ueber)”などである。複合語を作る時には、1マス略字であることを宣言する告知符号(、2の点)を前置して表す。ドイツ語の特徴は豊かな造語力であるが、これらの略字は、それに応じられるグループである。
 第3のグループは、格変化語尾、あるいは活用語尾だけ取る略字である。数は少なく、“h(hatt)、(haett)、i(ihr)、y(welch)、(sein)”の5個である。しかしこのグループは、これに続くコンマ略字と同様に働く略字のグループである。

 コンマ略字:
 1マス略字の第2のグループは、他の文字や略字と続く時に、告知符号(、2の点)を前置して略字であることを指示する。この場合指示するのは、1マス略字の第2のグループのみである。第1・第3のグループは指示しない。従って第1と第3のグループの点字符号にこの告知符号(、二の点)を前置すれば、新たな略字が構成されることになる。この略字には第1のグループから16個、第3のグループから4個、そして音節略字から3個の略字が当てられた。例えば“r”は一マス略字では“der”であるが、コンマ略字“r”では、“fahr”を表す。“s”は一マス略字では“sie”であるが、コンマ略字“s”では“soll”を表す。“”は一マス略字では“die”であるが、コンマ略字“ ”は“spiel”を表すのである。このようにコンマ略字は、1マス略字の第3グループと同様の働きをする。

 語幹略字:
 もう1つ、1マス略字に格変化語尾や活用語尾が続く時、1マス略字とは別の語を指示する略字がある。例えば“”は、1マス略字では定冠詞“die”を表すが、これに格変化語尾が付くと“dies”と読まれなければならなくなる。“e(diese)、c(diesen)、 (dieses)”となる。(詳細は前号をご参照下さい。)

 以上が、前回までのまとめである。

 G2マス略字
 ドイツ語点字の略字法(“Kurzschrift”)のご紹介は、以上で山を越えたと言ってよい。今回の冒頭でも述べたように、ドイツ語の文章を点字で表す時、その大方をこれからご紹介する2マス略字が占めている。この2マス略字が、ドイツ語点字の主役のように見える。しかしそれは錯覚であって、実際は依然として38個のアルファベット、拡張アルファベットと、23個の音節略字(“c、q、x、y”の4文字は、重複している。)、計57個の点字符号によって組み立てられているのである。
 また定冠詞や前置詞、その他の重要な語は、約100個の1マス略字、コンマ略字、語幹略字、前綴り・後綴り略字で表される。
 これからご紹介する2マス略字は、従って、単語や語幹を2つの点字符号で表すだけの働きをするものと理解してよい。表記の枠組みは、これまでにご紹介した略字の表記法に従っている。ただしその数が150余りと多数に登っていて、その単語1つ1つを読みこなせなければ、文章を読むことができない。これを習得しなければ、ドイツ語点字を読むことはできない。しかしその構造も働きも極めて明解であるので、私たちは英語点字の習得ででも経験していることだが、既にご紹介した略字と2マス略字を習得することが、ドイツ語の基本構造と、数百に登る単語を身に付けることになる。
 本稿では2マス略字の全てをご紹介することはしない。単語の要素2つを取り出して、2マスの点字符号で表され、格変化語尾、活用語尾、前綴り・後綴りが、単語と同様に接続されることをご存じいただければ充分である。例:

ao also    bl blind
bg bring    k charakter
db dabei    dm damit
dt demokrat    d Deutsch
eo ebenso    jr jahr
kx komm    kz kurz
nh nehm    t schrift
s selbst    rk republik
d wieder    b arbeit

Dc blckzt  deutschen blindenkurzschrift

dsc  Aufwiedersehen

("Leitfaden der Blindenvollschrift" und "Kurzschrift"  1973 Blindenstudienanstalt Marburg Lahn)
                                         (続く)
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