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漢点字の散歩(22) 岡田 健嗣 |
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漢点字紹介(5) 4. 漢点字のご紹介 「近似文字」は、基本文字の一つです。「近似」とは、形が似ているという意味で、漢字の要素である形に着目して考えられた漢点字です。漢字の形は、よく似ていてもそれぞれの由来が異なっていたり、あるいは形が似ているところからその意味も近接するものがあります。従って「近似文字」にも、意味的には関わりの薄い文字もあれば、大変近接した文字があります。 「近似文字」は、二マスで表される漢点字です。それには一マス目に「・・」が置かれて、二マス目に本体の漢点字符号が置かれるものと、一マス目に漢点字符号が置かれて、二マス目に「・・」の符号が置かれるものがあります。 ここでは第一基本文字に形の似た「近似文字」をご紹介します。 木の近似文字 (1) 未 ミ いまだ この文字は木の先端、梢を表して、「木」の上部に点を加えた形の文字です。漢点字では「木」の形を残して二マス目に「」を加えて、「 」で表します。部首として他の文字を構成します。 例: 味 魅 昧 (2) 本 ホン もと この文字は、木の根元を表して、「木」の下部に点を加えた形の文字です。漢点字では「木」の形の後ろに「」を加えて「 」で表されます。 例: 体 鉢 田の近似文字 (3) 由 ユウ ユ よし この文字の形は「田」の縦の線が上に突き出た形です。この文字の形は「田」とは異なって、液体を入れる容器を象っています。漢点字では「田」の形に「」を加えて、「 」で表されます。 例: 宙 抽 笛 油 釉 (4) 曲 キョク まがる まげる これは「由」の縦の線を二本にした形の文字です。「田」の文字には由来しません。竹を削って曲げて作った籠を象っています。漢点字では「田」に「」を加えて「 」で表されます。 目の近似文字 (5) 真 シン まこと この文字は「目」の形を構成要素としていますが、「目」には由来しません。漢点字では一マス目に「」を置いて「 」で表されます。 例: 慎 鎮 心の近似文字 (6) 必 ヒツ かならず この文字は「心」の近似文字です。「心」に右斜めの線を重ねた形の文字ですが、「心」とは異なった文字です。漢点字では、一マス目に「心」を置き、二マス目に「」を置いたかたちです。 例: 泌 秘 密 蜜 * 「密、蜜」の二つの文字には「必」が含まれていますが、漢点字符号「 、 」には、「必」の漢点字符号「必」は省略されて、「密」はウ冠と山、「蜜」はウ冠と虫で表されています。この二つの文字の音「ミツ」は、「必」に由来します。 (7) 正 セイ ショウ ただしい この文字は「止」の上に一を置いた形の文字です。漢点字では「 」で表しますが、ご覧のように近似文字の原則とは異なっています。例: 政 証 征 症 A 漢数字およびその近似文字 漢点字の漢数字は、点字の数字の表記に準拠しています。 点字の数字は、ルイ・ブライユの点字表の一列目(上四つの点の組み合わせ)の10個の点字符号に「数符」と呼ばれる点字符号「」を前置することで表されます。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 たとえば、「1,234,567,890」という数字の表記は、「 」となります。 漢数字にも同様の考え方を採用しました。数符に当たる「漢数符」は「」です。この符号が前置された漢点字は、漢数字です。そして漢数字の本体の点字符号には、終点である「」が加えられます。 (1) 一 イチ ひとつ (2) 二 ニ ふたつ (3) 三 サン みつ みっつ (4) 四 シ よつ よっつ (5) 五 ゴ いつつ (6) 六 ロク むつ むっつ (7) 七 しち ななつ (8) 八 ハチ やつ やっつ (9) 九 キュウ ク ここのつ (10) 〇 ゼロ * (10)の「 〇」は、本来の漢数字ではありません。縦書きの文章では住所や電話番号などを、しばしば漢数字で算用数字と同様に表記されます。 例: 電話番号 東京都庁代表: 〇三‐五三二一‐一一一一 → 横浜市役所代表: 〇四五‐六七一‐二一二一 → * 漢数字の「十」は、第一基本文字の「」です。漢数符は前置されません。 (11) 百 ヒャク もも 「 」は、漢数字の「百」を表す漢点字符号です。 (12) 千 セン ち 「 」は、「千」を表す漢点字符号です。 例: 舌 話 活 (13) 万 マン よろず 「 」は、「万」を表す漢点字符号です。この文字は、漢数字としてのみならず、広く用いられます。 (14) 億 オク 「 」は、「億」を表す漢点字符号です。この文字は六書では形声文字ですが、漢点字では基本文字としました。 (15) 兆 チョウ きざし きざす 「 」は、「兆」を表す漢点字符号です。この文字は漢数字としてのみならず、広く用いられます。 例: 跳 逃 桃 近似文字 (16) 丸 ガン まる まるい この文字は「九」に点を加えた形です。そこで「九」の近似文字としました。一マス目に「」を置き、二マス目に本体の」を置きました。 (17) 意 イ こころ この文字は「億」の近似文字です。文字の成り立ちからしますと、「億」は「意」に人偏を加えた形声文字ですので、「意」を基本文字としなければなりませんが、「億」を漢数字としましたので、「意」をその近似文字としました。一マス目に「」を置いて、二マス目に「億」の本体「」を置きました。 例: 憶 臆 (18) 元 ガン ゲン もと この文字は「兆」の近似文字です。「兆」は「儿」(ひとあし)に似た形ですので、「儿」の上に漢数字の二が置かれた形の「元」を、近似文字としました。 例: 完 院 冠 B 複合文字 (1) 複合文字と字式 ここまで第1基本文字と漢数字の2つの基本文字をご紹介してきました。この基本文字が2つ・3つ組み合わされて、さらに別の文字が構成されます。これを「複合文字」と呼びます。 ところで基本文字とされた文字にも、幾つかの要素の組み合わせでできた文字が含まれています。つまりこの基本文字は、六書でいう「象形文字」や「指事文字」と全て重なるわけではありません。中には「会意文字」や「形声文字」に分けられる文字も含まれています。 これからこれまでご紹介した基本文字で構成される「複合文字」をご紹介しますが、それに先だって、「字式」と呼ばれる表現をご紹介します。 漢点字は、1マス・2マス・3マスの点字符号で漢字の形を表現する点字の漢字体系です。ところが漢字の構成要素は重層的です。従って漢点字の符号から漢字の構成を読み取ることは、極めて困難と言わざるを得ません。そこで漢点字の創案者の川上泰一先生は、加減乗除や括弧の類を使用して、漢字の構成要素の配置を数式の要領で表現することを考えつかれました。 それが「字式」です。 ここではこれまでご紹介した基本文字のうちで、2つ以上の構成要素から成る文字の字式をご覧に入れて、この後の「複合文字」も、字式を示しながらご紹介します。 漢字の構成は、左に置かれるものを「偏、右に置かれるものを」「旁」、上に置かれるものを「冠」、下に置かれるものを「脚」と呼びます。さらに外側を覆うものを「構え」、左斜め下に降りるものを「垂れ」、左側に位置しながら文字の下に流れるものを「繞」と呼びます。 字式ではその配置を、「+」で左右の並びを、「/」で上下の並びを、「>」で「構え」や「垂れ」の中に囲まれることを表します。また「・」は、上下に並んで、しかもくっついた関係を表します。 なお全ての部首に名前がついているわけではありませんので、字式の表記にはカナ文字や括弧の説明を付加します。字式内の括弧は、“ ”を使用します。また「ツワ冠」は「学」の冠を、「やね」は三角の屋根を、「」は連火(四つ点)を表します。 以下、第1基本文字と漢数字に現れた、複数要素の漢字の字式です。 系 = 丶(点)・糸 家 = ウ冠 / 豕(いのこ) 宿 = ウ冠 / 佰 佰 = 人偏 + 百 学 = ツワ冠 / 子 語 = 言偏 + 吾 吾 = 五 / 口 都 = 者 + おおざと 者 = 老い冠 > 日 食 = やね / 良 仁 = 人偏 + 二 私 = 禾偏(ノ木偏) + 厶 進 = しんにょう + 隹(ふるとり) 石 = 厂(がんだれ) > 口 病 = 病垂れ(やまいだれ) > 丙 店 = 广(まだれ) > 占 占 = 卜・口 分 = 八頭(はちがしら) / 刀 性 = 立心偏 + 生 囲 = 囗(くにがまえ) > 井 正 = 一・止 億 = 人偏 + 意 意 = 音 / 心 音 = 立 / 日 以上が、複数の要素を持つ、第一基本文字と漢数字の字式です。 複合文字 (1) ウ冠を含む文字 (1) 安 アン やすい やすらか ウ冠 / 女 この漢点字符号は、「」でウ冠を、「」で女を表します。ウ冠と女を、横に配置しました。 熟語: (安心) 易(安易) 価(安価) 不 (不安) (2) 案 アン 安 / 木 この漢点字符号は、「」で「安」を、「」で「木」を表します。二マスに収めるために、ウ冠の符号を省きました。 熟語: 外(案外) 内(案内) (思案) 山(案山子) (3) 完 カン まっとうする ウ冠 / 元 この漢点字符号は、「」でウ冠を、「」で元を表します。 熟語: (完走) 成(完成) (4) 院 イン こざと偏 + 完 この漢点字符号は、「」でこざと偏を、「」で完を表します。ウ冠を省略しました。 熟語: (学院) (病院) (5) 字 ジ あざ ウ冠 / 子 この漢点字符号は、「」でウ冠を、「」で子を表します。 熟語: 文 (文字) 字引(字引) (6) 宗 シュウ ソウ むね ウ冠 / 示 この漢点字符号は、「」でウ冠を、「」で示を表します。 熟語: 教(宗教) 派(宗派) (宗門) (7) 宝 ホウ たから ウ冠 / 玉 この漢点字符号は、「」でウ冠を、「」で玉を表します。 熟語: 物(宝物) (七宝) 木を含む文字 (8) 林 リン はやし 木偏 + 木 この漢点字符号は、木を表す「」を二マスに置き、始点と終点を付けた形です。木がまばらに生えている様子を象っています。 熟語: 野(林野) 山 (山林) (森林) (9) 森 シン もり 木 / 林 この漢点字符号は、「」で木を、「」で数字の3、3本の木を表しています。 熟語: (森林) (森閑) (10) 相 ソウ ショウ あい 木偏 + 目 この漢点字符号は、「」で木偏を、「」で目を表します。 熟語: (相談) (相手) (11) 想 ソウ おもう 相 / 心 この漢点字符号は、「」で相を、「」で心を表します。目を省略しました。 熟語: 念(想念) 像(想像) (思想) (12) 休 キュウ やすむ 人偏 + 木 この漢点字符号は、「」で人偏を、「」で木を表します。 熟語: (休日) 憩(休憩) (連休) (13) 来 ライ くる きたる (字式は省略) この漢点字符号は、来の旧字体である來に従っています。「」は木を、「」は人の形を表します。ただしこの人の形は人を意味してはおりません。実った麦の穂を象っています。漢点字では形の人を取って符号にしました。 熟語: (来訪) 客(来客) 到 (到来) * 「来、來」の字式は、やや複雑になりますので、ここでは割愛しました。 禾(ノ木を含む文字) (14) 委 イ ゆだねる 禾(ノ木) / 女 この漢点字符号は、「」で禾を、「」で女を表します。 熟語: (委員) (15) 季 キ すえ 禾(ノ木) / 子 この漢点字符号は、「」で禾を、「」で子を表します。 熟語: (季語) 節(季節) (16) 和 ワ やわらぐ 禾(ノ木)偏 + 口 この漢点字符号は、「」で禾を、「」で口を表します。 熟語: 解(和解) 平 (平和) (17) 秘 ヒ ひめる 禾(ノ木)偏 + 必 この漢点字符号は、「」で禾を、「」で必を表します。 熟語: 密(秘密) 神 (神秘) 力を含む文字 (18) 加 カ くわえる 力 + 口 この漢点字符号は、「」で力を、「」で口を表します。 熟語: 算(加算) 参 (参加) (19) 賀 ガ 加 / 貝 この漢点字符号は、「」で加を、「」で貝を表します。 熟語: 年 (年賀) (祝賀) (20) 協 キョウ かなう 十 + 力/“力+力” この漢点字符号は、「」で十を、「」で「力/“力+力”」を表します。力を一つだけ用いました。 熟語: (協力) 同(協同) 儿(ひとあし、元のあし)を含む文字 (21) 兄 ケイ キョウ あに 口・儿(ひとあし) この漢点字符号は、「」で口を、「」で儿(ひとあし)を表します。 熟語: 弟(兄弟) 大 (大兄) (22) 祝 シュク いわう ほぐ 示偏 + 兄 この漢点字符号は、「」で示偏を、「」で兄を表します。口を省略しました。 熟語: (祝賀) 辞(祝辞) (23) 況 キョウ いわんや さんずい + 兄 この漢点字符号は、「」でさんずいを、「」で兄を表します。口を省略しました。 熟語: 情 (情況) (24) 見 ケン みる 目・儿(ひとあし) この漢点字符号は、「」で目を、「」で儿(ひとあし)を表します。 熟語: は に(百聞は一見に) (25) 視 シ みる 示偏 + 見 この漢点字符号は、「」で示偏を、「」で見を表します。儿(ひとあし)を省略しました。 熟語: (視点) 凝 (凝視) 田を含む文字 (26) 男 ダン ナン おとこ 田 / 力 この漢点字符号は、「」で田を、「」で力を表します。田畑を耕す男性を意味します。 熟語: (男性) (男女) (27) 畑 はた はたけ 火偏 + 田 この漢点字符号は、「」で火を、「」で田を表します。水田に対して畑地を意味する国字です。 熟語: (田畑) 地(畑地) (28) 細 サイ ほそい こまかい 糸偏 + 田 この漢点字符号は、「」で糸偏を、「」で田を表します。この文字の田の形は、新生児の頭蓋骨の泉門を象っています。 熟語: 部(細部) 詳 (詳細) (29) 思 シ おもう 田 / 心 この漢点字符号は、「」で田を、「」で心を表します。この文字の田の形も、新生児の頭蓋骨の泉門を象っています。 熟語: (思想) 沈 (沈思) (30) 胃 イ 田 / 肉月 この漢点字符号は、「」で田を、「」で肉月を表します。この文字の田の形は、食べたものが充満した胃袋を象っています。 熟語: 腸(胃腸) 袋(胃袋) |
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