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漢点字の散歩(24)
                    
岡田 健嗣
 漢点字紹介(7)
    4. 漢点字のご紹介

 C 比較文字と発音文字
 a. 比較文字とその近似文字
 ここでご紹介する比較文字は、第1基本文字、漢数字に続く3つ目の基本文字です。これらは、漢点字を考案された川上泰一先生のユニークな発想から誕生しました。
 比較文字は、「父母」、「左右」など、文字の意味の上から小さなグループにまとめられるものと、長さ・距離・重さ・容量など、度量衡の単位を表すものの、2つのグループに大別できます。
 比較文字の特徴は、1マス目に「」の符号が置かれることです。1マス目に「」の漢点字符号があって、2マス目に文字を表す漢点字符号が置かれます。他の文字と組み合わされて複合文字を作るときは、2マス目の漢点字符号が部首となります。このように比較文字は、「」が1マス目にある2マス漢点字であって、しかも基本文字です。そして1マス目の「」の符号が、第1基本文字の「比」に由来しているところから、「比較文字」と呼ばれます。

 上・中・下
 (1)   上   ジョウ  うえ かみ あがる あげる のぼる
 手のひらを上に向けて上野方を指し示す指事文字です。上の方、上に上がる、上昇することを表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で上を表します。

 (2)   中  チュウ  なか
 軍隊の指揮官の持つ旗を象った象形文字と言われます。真ん中や内側を意味します。的に中る、毒に当たると、「あたる」という訓読もあります。漢点字では、「」で比較文字を、「」で中を表します。
 例:  沖  仲 

 (3)   下  カ ゲ  した しも さがる さげる くだる
 手のひらを下に向けて、下を指し示す指事文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で下を表します。

 右と左
 (4)   右  ユウ ウ  みぎ
 カタカナの「ナ」の右下に、「口」が置かれた形の文字です。カタカナの「ナ」の形は、「有」と同様に、手で何かを持っていることを、右下の「口」が持たれているものです。みぎがわを意味する文字です。漢点字では「有」とは違って、「(十)」の符号は用いられません。「」で比較文字を、「」で右側を表します。
 例:  若 

 (5)   左  サ  ひだり
 カタカナの「ナ」の右下に、「工」が置かれた形の文字です。カタカナの「ナ」の形は、「有」と同様に、手で何かを持っていることを、右下の「工」が持たれているものです。ひだりがわを意味する文字です。漢点字では「有」とは違って、「(十)」の符号は用いられません。「」で比較文字を、「」で左側を表します。
 例: 

 大と小
 (6)   大  ダイ タイ  おおきい
 人が両手を広げてたった姿を帳面から見たところを象っています。漢点字では「」で比較文字を、「」で大を表します。
 例:  因  奇 

 * 「」の点字符号は、第1基本文字では「犬」を、比較文字では「大」を表します。「犬」では右肩に点が付いているだけで、形が大変類似しています。漢点字でも形の類似を採りました。

 (7)   小  ショウ  ちいさい
 小さなものが散らばっているところを象った文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で小を表します。
 例:  少  肖  

 父と母
 (8)   父  フ  ちち
 字形は、父の象徴である斧に由来すると言われます。漢点字では、「」で比較文字を、「」で父を表します。

 (9)   母  ボ  はは
 女性が母になることを象った文字です。漢点字では「」で比較文字を、「」で母を表します。

 高と低
 (10)   高  コウ  たかい
 背の高い建物を象った文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で高を表します。
 例:  稿   膏  

 (11)   低  テイ  ひくい
 右側の旁は、平らに均した土地を表しています。そこに人が住む集落が成立します。均した土地は、周辺より低くなります。この旁がテイの音を表します。左側には人偏がついて、元は背の低い人を表す文字でしたが、そこから「ひくい」という意味になりました。漢点字では、「」で比較文字を、「」で低を表します。この漢点字符号「」で、テイの音符を表します。
 例:  抵  

 入と出
 (12)   入  ニュウ  いる いれる はいる
 建物の入り口を象った文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で入を表します。
 * この文字は人の文字と左右が対象になっています。そこで漢点字符号も「」として、人の「」に近似した形を採りました。

 (13)   出  シュツ スイ  でる だす
 足を踏み出したときに付く足跡を象った文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で出を表します。

 優・良・可
 (14)   優  ユウ  すぐれる やさしい
 右側の旁は喪に服する悲しみを表した文字です。それに人偏が付いてそのような人を表します。またそのような所作をする人、俳優をも意味します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で優を表します。

 (15)   良  リョウ  よい
 穀物を容れる袋を象った文字で、質のよい穀物の粒を選り分けることを意味する文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で良を表します。
 例:  朗  浪 

 * 「良」に字形の似た文字「艮」があります。この文字も多くの文字を構成します。漢点字では「 」と、良の近似文字です。

 (16)   可  カ  よい べし
 神に祈りを捧げるときに用いる道具と、その所作を象った文字です。「…した方がよい」、「…できる」という意味を表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で可を表します。
 例:  何  河 

 東・西・南・北
 (17)   東  トウ  ひがし
 穀物を容れる袋を象った文字です。また、日が昇る様子を表すとも言われて、東の方角を意味する文字です。漢点字では、「」で比較文字を、「」で東を表します。
 例:  練  凍 

 (18)   西  セイ サイ  にし
 木の枝にかけた鳥の巣を象った文字です。西の方角を表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で西

 (19)   南  ナン  みなみ
 銅製の打楽器を象った文字で、南の方角を表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で南の方角を表します。
 例:  献 

 (20)   北  ホク  きた
 二人の人が、背を向け合っている姿を象っています。王様が背を向けているのが北で、この文字が北の方角を表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で北を表します。
 例: 

 寸・尺・里
 (21)   寸  スン
 指の幅の長さを表す文字で、ほんの少しという意味を表します。現在では、3.03センチメートル。漢点字では、「」で比較文字を、「」で寸を表します。
 例:  寺  射  守 

 (22)   尺  シャク
 手の親指と中指を広げたときの幅の長さを表す文字です。寸の10倍、30.3センシメートル。漢点字では、「」で比較文字を、「」で尺を表します。
 例:  駅  釈  沢 

 (23)   里  リ  さと
 社を中心に人が寄り集まって生活を営む場所を意味する文字です。また距離の単位として、3.9273キロメートルを表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で里を表します。
 例:  埋  野  理 

 斤と貫
 (24)   斤  キン
 斧を象った文字です。斧は木を伐ったり、武器に使用したりしました。また重さの単位として、600グラムを表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で斤を表します。
 例:  祈  近  新 

 (25)   貫  カン  つらぬく
 子安貝の貝殻を連ねた形を象った文字です。貝殻に穴を空けて紐を通すことから、ずっと続くことを意味するようになりました。重さの単位として、3.75キログラムを表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で貫を表します。
 例: 

 勺・升・斗
 (26)   勺  シャク セキ
 水をくむ小さなひしゃくを象った文字で、くむとかわずかという意味を表します。容量の単位として、18ミリリットルを表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で勺を表します。
 例:  釣  的 

 (27)   升  ショウ  ます
 ひしゃくの中に者が入っている様子を象った文字です。そこから者の容量を量る容器、マスを意味するようになりました。容量の単位としては、1.8リットルを表します。漢点字では、「」で比較文字を、「」で升を表します。
 例: 

 (28)   斗  ト
 柄の付いたひしゃくを象った文字です。ひしゃくで穀物をすくい取る、その容量を量ることを意味します。容量の単位としては、18リットルです。漢点字では、「」で比較文字を、「」で斗を表します。
 例:  科  斜  斡 

 比較文字の近似文字
 (29)   天  テン  あめ あま
 「大」の近似文字です。大の上に接して一が置かれた形で表されます。人の体とその上の部分の頭を象っています。天は空を意味して、神のいる場所と考えられました。漢点字では、「」で近似文字を、「」で大を表します。

 (30)   太  タイ タ  ふとい ふとる
 「大」の近似文字です。「大」の下の開いたところに点を置いた形です。「おだやか、やすらか」という意味に用いられます。漢点字では、「」で近似文字を、「」で大を表します。

 (31)   夫  フ フウ  おっと
 「大」の近似文字です。大は、両手を広げて立っている形、その男の髷に簪を差している形の文字です。漢点字では、「」で近似文字を、「」で大を表します。

 (32)   氏  シ  うじ
 「低」の近似文字です。低は人偏とテイの音を表す形からなっています。旁は、土地を平らに均して、人の住まいを置くことを表します。その上の部分がこの「氏」です。この文字は、氏族の象徴である柄の付いた小刀を象っています。漢点字では、「」で禁じ文字を、「」で低の旁を表します。
 例:  昏 

 (33)   丘  キュウ  おか
 「升」の近似文字です。土地の盛り上がりと谷間を象っています。丘漢点字では、「」で升を、「」で近似文字を表します。
 例: 

 * この他に「 憂」(優)、「 艮」(良)、「 斥」(斤)があります。これらは他の文字の構成要素として重要です。

 b. 発音文字
 4番目の基本文字は「発音文字」です。文字の音や訓をカナ点字で表して、漢字として使用するのがこの「発音文字」です。字形の面から見ると、やや複雑な形をした文字です。

 (34)   円  エン  まるい
 儀礼用の丸い器を象った文字です。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「エン」となります。

 (35)  鬼  キ  おに
 大きな力を持つもので、人に危害を加えるものとして恐れられました。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「オニ」となります。
 例:  魂  魔 

 (36)   告  コク  つげる
 神に祈ってその声を聞いたり、王の命令を臣下に伝えることを表す文字です。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「コク」となります。

 (37)   事  ジ  こと
 国王の行う祭りと、国王に仕えることを表します。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「コト」となります。

 (38)   生  セイ ショウ  いきる うまれる はえる なる おう なま き
 春に、草が芽生える形を象った文字です。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「セイ」となります。

 (39)   争  ソウ  あらそう
 棒状のものを引き合って、争う姿を象った文字です。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「ソー」となります。
 例:  静 

 (40)   対  タイ ツイ
 人が向かい合って壁を打ち固める形を象った文字です。タイと読むと向かい合うことを、ツイと読むと、二つで一組の意味を表します。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「タイ」となります。

 (41)   拝  ハイ  おがむ
 草花を手で抜く形を象った文字です。頭を地につけて拝礼することを意味します。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「ハイ」となります。

 (42)   反  ハン ホン タン  そる かえる そむく
 崖をよじ登っているところを象った文字です。崖が急なために身体が反り返っていることを表します。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「ハン」となります。
 例:  坂  板  返 

 (42)   民  ミン  たみ
 瞳を突き刺して視力を失わせる形を象っている文字です。視力を奪って神に仕えさせることを意味します。漢点字では、「 」で表します。漢点字符号をカナ点字読みしますと、「ミン」となります。
 例: 
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