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漢点字の散歩(27) 岡田 健嗣 |
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漢点字紹介(10) 4. 漢点字のご紹介 F 傍側基本文字 漢点字の開発は、漢字の構成を点字の符号で表そうという試みです。創案者の川上泰一先生は、漢字を構成するパーツである部首を点字の符号に当てはめて、「基本文字」と位置づけることから始められました。この作業は、漢字の構成上の分類である「六書」に沿って進められました。このようにして、多くの漢字が点字符号で表されることになりました。今回ご紹介するものが、この「基本文字」の最後です。 「傍側」とは耳慣れない言葉です。それもそのはずで、川上先生がお作りになった造語です。 「傍側基本文字」は、主に漢字の旁の位置に配置される部首です。つまり何時も傍らにあると意味で、こう呼ばれます。この漢点字符号は、一マス目に「、、」の符号が置かれて、二マス目に終点と点字符号が置かれます。これが部首となって他の漢字を構成しますが、そのときは、その点字符号が部首を表します。またこの文字の多くは、単独にも文字として用いられますが、なかにはあまり単独には用いられない文字も幾つかあります。 この文字の近似文字は、一マス目に「、、」の符号が置かれます。ここでは基本文字の直後にご紹介します。 (1) 離 リ はなれる はなす 鳥が鳥もちなどに捕らえられる形を表す文字です。現在はあまり使われませんが、「つく、かかる」という意味もあります。旁の隹は「ふるとり」と呼ばれて、鳥を象っています。漢点字では、「 」で表されます。「」でふるとりを表します。 例: 雄 雅 雀 集 熟語: 距 (距離) 別 (別離) (2) 及 キュウ およぶ 人の後ろを追って、背に手が届くことを表す文字です。「およぶ」とはやっと手が届くこと、そこから「および」と並列に並べる意味を表します。漢点字では、「 」で表されます。またこの漢点字符号「」は、「報、服」の旁、「ふくづくり」をも表します。 例: 扱 吸 級 報 服 熟語: 第(及第) (言及) (3) 乃 ダイ ナイ すなわち の 及の近似文字です。弦を外した弓を象っています。漢文訓読では「もし、すなわち」と訳されます。ひらがなの「の」は、この文字の草書体からできました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 携 秀 孕 (4) 亦 エキ ヤク また わき 人が立った両腋に手を差し入れて支える形を象った文字です。「また…、…もまた」と用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 跡 蛮 変 恋 (5) 袁 エン ゆったりとした衣服を身に着けた形を象った文字です。漢点字では、「 」で表されます。 例: 園 猿 遠 (6) 又 ユウ また 右手を象った文字です。「また」と読んで、ふたたびの意味に用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 取 収 奴 桑 (7) 干 カン ほす ふせぐ 身を守る盾を象った文字です。その盾で、守り防ぐという意味に用いられました。現在では乾と同様に、「ほす、かわく」の意味に使用されます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 刊 幹 汗 竿 肝 熟語: 拓(干拓) 菓(干菓子) (8) 于 ウ 干の近似文字です。先の曲がった刀を象った文字で、大きくて先が曲がったものを意味します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 宇 芋 迂 盂 (9) 朱 シュ あかい あけ 鉱物から取った顔料の鮮やかな赤い色を表す文字です。古代の人々には、不死の色と信じられました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 株 殊 珠 熟語: (朱肉) に交われば くなる(朱に交われば赤くなる) (10) 其 キ み それ 農具の箕を象った文字です。四角いものを表します。「それ、その」と、指示詞として用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 基 旗 期 棋 碁 箕 (11) 甚 ジン はなはだ 其の近似文字です。竈に鍋を載せて、ほどよく煮炊きすることを表しています。漢点字では、「 」で表されます。 例: 勘 堪 湛 斟 熟語: (甚大) 激 (激甚) * 「甚」を含む文字の漢点字符号は、偏に位置するときは「」で、旁に位置するときは「」で表されます。 (12) 失 シツ うしなう あやまつ 夫の左肩にカタカナのノを置いた形の文字です。「うしなう」とは、熱中して我を忘れることです。漢点字では、「 」で表されます。 例: 秩 迭 鉄 熟語: 症(失語症) (失言) (失火) (13) 共 キョウ とも 両手で物を捧げ持つ形を象った文字です。神に供物を供えることを意味します。両手で持つことから、「とも」の意味が生じました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 異 供 恭 熟語: (共用) 同(共同) (14) 呉 ゴ くれ くれる 古代中国南部に栄えた国名です。「くれ」とは、わが国での中国の古称です。「くれる」とは、相手に物を与える、あるいは相手が自分に与えることです。中国語がわが国に伝わったうち最も古い音を呉音といいます。また中国から伝わった古い衣服の形を呉服といいます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 虞 誤 娯 熟語: 音(呉音) 服(呉服) 越同 (呉越同舟) (15) 公 コウ おおやけ 大きな広場で公務を執る姿を象った文字です。朝廷・国家・公共を意味します。現在では国際的に、どこにも帰属しない海洋や大陸をも指します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 松 訟 熟語: 平(公平) 団 (公共団体) (16) 印 イン しるし 上から強く押す形を表す文字です。上から下へ押しつける形がしるしをつける形に通ずるところから、「しるし」、「判子」を表すようになりました。漢点字では、「 」で表されます。「」は、この文字の旁である卩(ふしづくり)を表します。 例: 節 却 即 命 熟語: (印字) (印象) (17) 申 シン もうす さる 稲妻を象った文字です。神を意味しました。稲妻が神の意向を伝えるところから、「もうす」と用いられるようになりました。また、干支の「さる」としても用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 神 伸 紳 暢 熟語: 請(申請) (申告) 楽(申楽) (18) 曳 エイ ひく 両手でものを引く形を表す文字です。ものを引っ張ることを意味します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 洩 熟語: 航(曳航) 挽 競(挽曳競馬) (19) 臣 シン おみ 上を見上げる目を象った文字です。元は神に仕える人を表しました。後に、仕える人・家来を意味するようになりました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 臥 監 蔵 姫 熟語: (大臣) (臣下) (20) 巨 キョ おおきい 臣の近似文字です。直線を測ったり線を引いたりするための矩(さしがね)を象った文字です。漢点字では、「 」で表されます。 例: 拒 渠 距 矩 熟語: (巨大) (巨人) (21) 毛 モウ け 垂れた髪の毛を象った文字です。体毛全般を言い、獣の毛、地表の草をも言います。漢点字では、「 」で表されます。 例: 尾 耗 熟語: 髪(毛髪) 純 (純毛) (22) 曽 ソウ かつて すなわち 食物を蒸す容器を象った文字です。漢点字では、「 」で表されます。この文字の旧字体である「曾」の漢点字符号は「 」で、この文字の近似文字です。 例: 僧 層 増 憎 贈 (23) 且 ソ ショ かつ 俎に食物が載った形を象った文字です。食物の載った俎を、祖先の霊に捧げることを意味します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 宜 祖 租 粗 組 阻 (24) 也 ヤ なり や かな 普通「や、かな、なり」と、終助詞として用いられます。注ぎ口のある水差を象った文字です。漢点字では、「 」で表されます。ひらがなの「や」は、この文字の草書体に由来します。 例: 施 他 地 弛 池 (25) 采 サイ とる いろ 草木から色を取ることを意味する文字です。美しい彩りを表します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 彩 採 菜 (26) 庄 ショウ 荘の略体として用いられた文字です。「おおきい、おごそか」の意味があります。わが国では、「庄屋」として、地域を管理する役目を指します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 粧 熟語: 園(庄園) 屋(庄屋) (27) 尭 ギョウ たかい 中国の、伝説上の帝王の名です。徳高い王で、聖天子と呼ばれます。そこから「たかい」の意味で用いられます。漢点字では、「 」で表されます。旧字体の「堯」の漢点字符号は、「 」です。 例: 暁 焼 繞 (28) 専 セン もっぱら 袋に入れたものをひたすら打ち固める様子を表す文字です。その作業に専念するところから「もっぱら」という意味に用いられます。また、打ち固めた形が丸いところから、「まるい、ころがる」という意味にも用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 * この文字を含む文字の新字体は、全て略体です。 例: 団(團) 転(轉) 伝(傳) 熟語: (専門) (専科) (29) 亭 テイ 高い建物を象った文字です。宿場に設けられた旅宿を表します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 停 渟 熟語: (亭主) (駅亭) (30) 長 チョウ ながい 髪を長く垂らした老人を横から見た形を象った文字です。老人は、尊敬を受けています。この文字には「ながい」という意味に加えて「人の上に立つ、上に立っておさめる」という意味に用いられます。漢点字では、「 」で表されます。また「髪」の上の部分の髟(かみがしら)も、「」で表されます。 例: 帳 張 脹 髪 熟語: (社長) (長安) (31) 豆 トウ ズ まめ 脚のついた器を象った文字です。「荅」と音が通ずるところから、「まめ」の意味に用いられるようになりました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 短 登 頭 豊 熟語: (大豆) (小豆) (32) 台 ダイ タイ うてな 「うてな」とは、高い建物の物見台のことです。この文字の旧字体「臺」は、それを象っています。「ダイ」は、物を載せる台や、機械や乗り物を数える単位として用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 始 治 胎 殆 熟語: 風)台風) 所(台所) (31) 司 シ つかさどる 神にお伺いを立てて、神意を聞く様子を表す文字です。そのような役割とそれに当たる人を意味します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 伺 嗣 詞 飼 覗 熟語: (司会) 法(司法) 直(司直) (33) 旨 シ むね うまい ご馳走を器に取り分ける形を象った文字です。「うまい」は料理の味がよいこと、「むね」はその内容です。漢点字では、「 」で表されます。 例: 詣 指 脂 に嘗 熟語: 趣 (趣旨) (主旨) (34) 改 カイ あらためる あらたまる 災いを祓っ正常な状態に復することを表す文字です。「あらためる、あらたまる」とは、元へ戻す、検査する、新しいものと取り替えるという意味です。漢点字では、「 」で表されます。漢点字符号「」は、攵(ボク、部首の通称は「ノ文」)を表します。 例: 救 教 激 故 敏 熟語: 革(改革) 札(改札) (35) 刀 トウ かたな 片刃の刀を象った文字です。斧や矛とともに武器として用いられました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 契 初 召 切 辺 熟語: (日本刀) (刀身) (36) 刃 ジン やいば は 刀の近似文字です。刀の刃が鋭く光った様子を象った文字です。刃物の「やいば、は」を意味します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 忍 熟語: (白刃) 諸 (諸刃) (37) 剣 ケン つるぎ 両刃の武器を表す文字です。刀は片刃、剣は両刃の刃物です。漢点字では、「 」で表されます。漢点字符号「」は、立刀を表します。 例: 刑 劇 剛 刻 熟語: (刀剣) ペンは よりも強し(ペンは剣よりも強し) * 立刀を表す漢点字符号は「」だけでなく、「」でも表されます。「」の例は「 刈・ 刊・ ・ 削刺」、「」の他の例は「 剤・ 罰・ 判・ 別」などです。 (38) 段 ダン 層をなす鉱石の模様と、それを長い柄の矛で打って、金属を取り出す様子を象った文字です。「ダン」とは、層になった重なりを言います。漢点字では、「 」で表されます。「」は殳(シュ、部首の通称は「ル又」)を表します。 例: 撃 設 鍛 投 般 熟語: 落(段落) 階 (階段) (39) 之 シ これ この の 足が先へ進む様子を象った文字です。指示詞の「これ、この」、漢文訓読の際は助詞の「の」として用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 芝 (40) 乏 ボウ とぼしい 之の近似文字です。物資の不足を意味します。漢点字では、「 」で表されます。 熟語: (欠乏) 耐 (耐乏) (41) 尚 ショウ たっとい なお 神の微かな意向が現れる様子を象った文字です。「たっとい」とは、神意に対する畏敬の意味です。漢点字では、「 」で表されます。 例: に嘗 掌 賞 常 党 堂 熟語: (和尚) * 「尚」が他の文字の構成要素となるときの漢点字符号は、「」です。 (42) 皮 ヒ かわ 獣の皮を剥ぐ様子を象った文字です。古代、獣の皮は、衣服・住居・武具の貴重な材でした。ものの表面、うわつらの意味としても用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 波 破 彼 疲 被 熟語: (皮肉) 革(皮革) 外 (外皮) (43) 巴 ハ ともえ 器物の把手を象った文字です。また蛇がとぐろを巻いている様子を表しているとも言われます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 把 肥 邑 熟語: (巴里) つ (三つ巴) (44) 非 ヒ あらず すき櫛を象った文字です。髪をくしけずる歯の並んだ形を表します。現在では「あらず」と読んで、「そむく、はずれる」の意味に用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 俳 排 輩 悲 緋 誹 熟語: 道(非道) 礼(非礼) (45) 不 フ ず しからず 元は花の萼を象った文字ですが、現在は、「…ず」と読んで、否定形として用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 杯 否 熟語: 眠 (不眠不休) 合理(不合理) (46) 冊 サツ 古代の竹簡や木簡を連ねた書物を象った文字です。「サツ」は、現在も書物を数える単位です。薄いもの・平たいもの・揃えられているものを表します。漢点字では、「 」で表されます。同様の意味の「扁」の漢点字符号は「 」ですが、部首となるときは、「」で表されます。 例: 柵 編 偏 遍 熟語: (冊子) (47) 亡 ボウ ない 死者を表す文字です。「ない」とは、死亡して姿が消えることです。「にげる、ほろびる」の意味にも用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 忙 忘 望 妄 盲 熟語: 命(亡命) (滅亡) (48) 了 リョウ おわる ものの拗れる様子を象った文字です。「おわる、おえる、わかる」の意味に用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 亨 熟語: (完了) 終 (終了) 解(了解) (49) 哉 サイ はじめる かな や 戦いの前に、武器の戈(ほこ)を清めて先勝を祈願することを表す文字です。この儀礼の後に出陣するところから、「はじめる」の意味が生じました。また終助詞の「かな、や」としても用いられます。漢点字では「 」で表されます。「」の漢点字符号は、この文字の左下にある口を除いた、十と戈の構えを表します。 例: 栽 裁 載 戴 (50) 呂 ロ リョ 銅塊が二つ並んだ形、あるいは並んだ背骨を象った文字と言われます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 営 宮 侶 (51) 牙 ガ ゲ きば 上下相交わる獣の牙の形を象った文字です。爪と牙は、獲物の捕捉や外的との戦いに欠かせない武器です。漢点字では、「 」で表されます。 例: 芽 雅 邪 穿 熟語: (象牙) 城(牙城) (52) 以 イ もって おもう 田畑を耕す耜に由来する文字です。「もって、よって」、また「おもえらく」と用いられます。漢点字では、「 」で表されます。ひらがなの「い」は、この文字の草書体に由来します。 例: 似 熟語: 伝(以心伝心) (53) 至 シ いたる はなはだ 矢を射て占い、矢の到達したところを神聖な場所と定めて、そこに重要な建物を建てました。「いたる」とは、矢の至ったところという意味です。「自…至…」は、「…から…まで」を意味します。漢点字では、「 」で表されます。 例: 屋 室 致 窒 到 熟語: 極(至極) 難(至難) (54) 予 ヨ あらかじめ われ 神意をはかることを表す文字です。神意によって将来が決定されることから、「あらかじめ」と用いられます。また「われ」と、一人称を表す文字としても用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 序 野 預 熟語: 猶 (猶予) (予見) (55) 矛 ム ほこ 予の近似文字です。長い柄のあるほこ(武器)を象った文字です。漢点字では、「 」で表されます。 例: 茅 柔 務 熟語: 盾(矛盾) (56) 皿 ベイ さら 浅く平たい器を象った文字です。水を入れて水鏡としたり、供物を盛って神に供えたりしました。漢点字では、「 」で表されます。文字の構成では、下部に配置されます。 例: 益 塩 監 盛 盤 (57) 血 ケツ ち ちぬる 皿の近似文字です。皿の中に犠牲の動物の血を注いだ形を象っています。漢点字では、「 」で表されます。 熟語: 液(血液) 鮮 (鮮血) (58) 旦 タン あさ あした 雲の上に日が昇っている形を象った文字です。夜の明ける時を意味します。古代の政は早朝に行われました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 但 担 胆 熟語: (元旦) (一旦) (59) 甘 カン あまい あまえる あまやかす 錠をかけて封じ込める形を象った文字です。元は首枷のような刑具を意味しましたが、後に甘草を表すところから、「あまい」という意味に用いられるようになりました。漢点字では、「 」で表されます。 例: 紺 甜 某 箝 熟語: (甘味) 藷(甘藷) (60) 辰 シン たつ 貝のハマグリ(蜃)を象った文字です。ハマグリが足を出して動くことを表します。現在では干支の五番目の「たつ」として用いられます。漢点字では、「 」で表されます。 例: 辱 唇 振 震 農 以上で「基本文字」のご紹介は終わります。 これらを組み合わせて、新たな文字が作られます。 |
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