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みどり学級へのサービス(5)
           
みどり学級での公開授業(1)
                                 
山内薫(墨田区立緑図書館)

 昨年の2月14日、緑小学校で公開授業が行われ、「みどり学級」でも公開授業を行った。今回の「みどり学級」での研究発表授業については、半年以上も前から図書館に協力の要請があり、一昨年の末から検討を行い、当日45分の授業を担任の先生方と共に行った。その時の様子を何回かに分けてお伝えしたい。

 緑小学校は、墨田区の特色ある学校づくり推進校として「ふれよう、考えよう、伝えよう−読書活動を通して−」を主題として研究活動を進めており、2002年から毎週木曜日に「読書の時間」がスタート。2004年からは「朝読書」という名称で週四回、全校を挙げて朝の読書に取り組んでいる。
 小学館が発行している『小学一年生』入学直前号(2006年2月10日発行)の「最新小学校教育事情!」という2ページの連載記事で、緑小学校が次のように紹介されている。
 記事のタイトルは「全校の先生が読み語り 本の魅力を発見ブックタイム」とあり「墨田区立緑小学校は『朝の読書運動』に取り組んでいます。
 火曜日から金曜日までの、1時間目」や授業が始まる始まる前の10分間、自分が好きな本を黙って読む。それが『朝の読書運動』です。
 ルールは@毎日やる、Aみんなでやる、B好きな本でよい、Cただ読むだけ、とわずかにこれだけです。
 この運動は、ただ単に本を読んで、読書の楽しみを発見するということだけでなく、『読書を通して、人とかかわりながら、心に感じたことを素直に表現できるようになる』、『いろいろな考えを知り、共感できるようになる』『いろいろなことに興味や関心を示し、前向きに行動できるようになる』『さまざまな価値観に触れ、自分で正しく判断できるようになる』ことを目標としています。
 緑小学校の田村康弘校長先生は、
 『良い本をたくさん読めば、やさしい気持ち、正しい気持、強い力が心にたまる』という意見を持っています。そこで、学校を上げて読書好きな子どもを育成する運動に熱心に取り組んでいるのです。
 一年生は入学当初は、まだ字が読めないので担任の先生が読み語りをしています。
 この学校では、読み聞かせを『読み語り』といっています。読む側が、心を込めて語ることで、子どもたちの心に届くというこだわりを込めたことばです。
 この記事の中で図書館は「この学校には、教室はもちろん、廊下にも玄関にも本がいっぱいならんでいました。子どもたちが自分で読みたい本は、近くの区立図書館でまとめて借りてきているのです。区立図書館がすぐそばにあるというのもこの学校のメリットのひとつかもしれません。」という一節に登場する。

 また、公開授業が終わった2006年3月8日の日本経済新聞「春秋」の欄でも「『本を読む時間です。自分の席に座りましょう』。校内放送が流れ、元気な朝のざわめきがピタリと消えた。8時半、『朝の10分間読書』の時間だ。3年1組は静寂そのもの。一斉に本に向かう姿は自然で、子供たちがりりしく見えた。▼東京・墨田区立緑小学校は、朝の読書運動のモデル校的存在だ。東京大空襲(1945年3月10日)を語り継ぐ『ガラスのうさぎ』の作者・高木敏子さんの母校である。たった10分間でも読書によって子どもたちは変わっていくものだ。原則は毎日やる、みんなでやる、好きな本でよい、ただ読むだけ、というもの。▼授業中、落ち着かない子供も本を媒介にして静と動の切り替えを覚えていく。なるほど黙読とは『黙る』ことであり、集中することである。(以下略)」と、雑誌や新聞で取り上げられられたことからも、今回の公開授業は学校の総力を挙げて取り組まれていることが分かる。

 それは当日配布された『2005年度校内研究集録』にも現れており、実にその冊子はA4版で88ページに及ぶの大部なものである。みどり学級について載っているページには緑図書館の訪問について、写真に添えて次のように記されている。「『地域図書館(緑図書館)との関わり☆毎月第2木曜日読み語り』学級の児童は、図書館の方々による読み語りを毎回楽しみにしている。また、読み語りの後には楽しいお楽しみの時間を用意してくださっている。手品の時間・工作の時間・ゲームの時間など内容は盛りだくさんである。季節にあった催しを用意してくださるので、普段は四季に興味が向かない児童も季節感に触れられるよい機会となっている。みどり学級では、読み語りに来て頂いた次の日に、緑図書館にいくことになっている。児童はそこで、前日に読んでもらった本や好きな本を探し、学級に持ち帰って読書することにしている。」

 さて、昨年度のみどり学級には1年生の男子、2年生の男子、4年生の女子、5年生の男子と女子、6年生の女子と6名が在籍しており、担任の先生2人の他に介助員の方が1名という構成になっていた。公開授業では特に2年生のK君が興味を持てるようなテーマで行えたら、というのが私たちや先生方の暗黙の了解事項になっていた。K君は2004年の4月に1年生でみどり学級に入学したが、3ケ月ほどは机に座っていることもままならない状況で、やっと机に座って絵本の読み語りを聞けるようになったのは7月を過ぎてからだった。K君のお気に入りは「機関車トーマス」で、身の回りのものやサインなども多くがトーマスグッズで占められていた。トーマスの大型絵本が出たので持っていって読んだのが2005年の4月だったが、あまりにトーマスに偏りすぎるということで、そのころから教室ではトーマス禁止令が出ていた。その後はアンパンマンがお気に入りになったようだったが、ある日彼がトーマス以外の絵本の一ページを開いて見ている光景を眼にした。それは『3びきのやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン絵 福音館書店)のトロルが出てくる場面だった。また、モーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』(冨山房)もお気に入りの絵本であることが分かり、公開授業のテーマは即座に「かいじゅう」に決まった。
 『3びきのやぎのがらがらどん』は以前、図書館で人形劇をやった時の脚本と音楽があるので、それを元にして先生と生徒で劇を上演する。読み語りの絵本は『かいじゅうたちのいるところ』に加えて、S君の好きな『つきよのかいじゅう』(長新太作 佼成出版社)、ちょっと変わったところで『くいしんぼうのあおむしくん』(槙ひろし作 福音館書店)も加えて読むことになった。

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