「うか」117号  トップページへ 
点字から識字までの距離(110)
           
野馬追文庫(南相馬への支援)(28)
                                   
山 内  薫

 布の絵本制作グループ ぐるーぷ・もこもこ
          野口光世さんからの寄稿


 ぐるーぷ・もこもこは1979年に結成された布の絵本や布の遊具を制作しているグループです。ようこそバリアフリー絵本の世界へのホームページには「川崎市麻生区に本部があり、横浜市青葉区、東京都町田市、滋賀県湖南市に支部があり、メンバーは総勢約100名、今年40周年を迎える。布の絵本84点、布のおもちゃ200点以上を考案。」という紹介と「ぐるーぷ・もこもこ」オリジナル作品リスト58点が掲載されています。
  (https://www.bf-ehon.net/goaisatsu)
 2016年には、第70回読書週間記念第46回野間読書推進賞を受賞しています。受賞関連記事で、「『ぐるーぷ・もこもこ』の作品はすべてオリジナルで、製作開始年や書誌情報を確認できます。また、童謡などをもとにした作品に関しては、歌詞の掲載にあたって日本音楽著作権協会の許諾を得ています。また、2011年にはIBBY障害児図書資料センターの推薦図書に選ばれ、東日本大震災やネパール地震などの被災地支援でもたくさんの布絵本を寄贈してくださっています。受賞スピーチでは、創設者の野口光世さんが、子どもの視点や立場を考えて作り続けてきたことや、活動場所を確保する難しさなどを話してくださいました。」と紹介されています。(https://jbby.org/domestic/post-135)その童謡を元にした『こんこんくしゃんのうた』(デザイン:野口光世、作詞:香山美子 ぐるーぷ・もこもこ)は IBBYバリアフリー図書2017の推薦図書に選ばれています。この布の絵本を送った南相馬の施設からは次のような感想をいただいています。
「作業療法士の視点から見て、布絵本も温もりがあるし、わくわくどきどき楽しみながら手先の器用さ(マスクをかけてあげるなど)を促せる点など、とっても嬉しい絵本です。いつも鶴に人気がありますよ(笑)飛び出る感じがインパクトがあるようです。」(作業療法士の方より)
 また、「絵本をお送りいただきましてありがとうございました。素敵な布絵本ですね。ひと針ひと針の思いが、絵本いっぱいに感じることができ、子どもたちの弾んだ声と笑顔が浮かんできます。」(原町保健センターの方より)という感想などもいただいています。


 先日、娘から これからコンサートを聴きにさいたまスーパーアリーナへ行くとメールが入りました。さいたまスーパーアリーナと聞き、8年前の3月の出来事をまざまざと思い出しました。東日本大震災で福島第一原発事故のため、双葉町の全員が町を離れ、さいたまスーパーアリーナへ避難されたとニュースを聞いていたところ、JBBYの撹上さんから、「さいたまスーパーアリーナには、子供達の遊ぶ遊具が何もない」と一報が入りました。どんな時でも、子供たちには遊びが必要です。大人たちが、それどころではない状況の中で、子供たちはどんなに傷つき怯えているのではないかと思うといても立ってもいられない気持ちになりました。幸いアリーナには、子供たちが遊べるスペースはあるようでした。みんなで遊ぶきっかけになればと、すぐに布のおもちゃを送ることを決めました。しかし、もこもこ本部の方には、作り置きのストックが無く、作っていたのでは間に合わないので、支部に問い合わせたところ、町田支部に大型の的当て他おもちゃの作り置きがあったので すぐに送ることができました。
 これが、東北とのご縁の始まりで、野馬追文庫さんとのご縁の始まりでした。テレビに刻々と映る津波の映像に息を呑み、つづく火災、原発事故の報道にただ茫然と立ちすくむ思いの私たちにも、できることがあるのかも知れないと考える余地を与えてくださったのが、あのさいたまスーパーアリーナへ送った布のおもちゃだったと、今でも、声をかけてくださった撹上さんに感謝しています。
 そして、あしたのほんプロジェクトが立ち上がり、東北の子供達に「だいじょぶだよセット」として、絵本を届ける活動が始まりました。私たちは、寄付できるだけのお金はないけれど布のえほんや布のおもちゃをつくることはできる、それを一緒に送っていただけるのだったら協力したいとみんなで一生懸命作りました。あしたの本プロジェクトですから、布のえほんを中心に送りたいのですが、布のえほんは製作に時間がかかります。布のえほんを作りながら平行して、布のおもちゃを作ってJBBYに送りました。JBBYでは、気持ちよく受け入れていただきましたが、本と違って発送されるのにご苦労があったことと思います。
 もこもこから、8年の間に700点あまりの作品を送ったとされていますが、大半は布のおもちゃで、布のえほんは4分の1ぐらいでしょうか?布のおもちゃは布のえほんの友だちで、布のえほんと一緒にすぐれたえほんの入り口で遊んでいただけたら嬉しいです。
 又、私が属していた玩具福祉学会でも、学会員の小児科や精神科の医師を中心に作られた被災地支援チームからも、子供達1人1人に手渡せる小さいおもちゃが欲しいと希望があり、小さいことりのおもちゃを200~300と連日作りました。玩具福祉学会は昨年幕を閉じましたが、活動の後半では、みんなで遊べるおもちゃが求められるようになり、ここでも東北の状況の変化を知ることができました。
 撹上さんからは、ご多忙の中、あしたの本プロジェクト、そして希望プロジェクトに活動が移行してからも、送付状況を逐一報告していただき、送付先からの声も届けていただいています。丁寧な報告にお忙しい中をとかえって申し訳なく思っています。
 お陰さまで、私達は現地に足をはこぶわけでもなくただ作るだけで、プロジェクトに参加させていただいているのですから本当にありがたいことです。正直、私は野馬追文庫さんのことを回を重ねる中で少しずつその活動内容が理解できるようになりました。当初、野馬追文庫は南相馬の野馬追で活動されている文庫の名前と思っていました。ごめんなさい。野馬追は南相馬に伝わる伝統あるお祭りの名前だったのですね。そして、南相馬の中で生活する子供達のところへ本を届ける活動をされているのですね。困難な状況の中で、子供達に心を寄せ、居場所作りをされている方々がいらっしゃることとそれを支援する活動があることを知りました。やっと野馬追文庫の活動がわかるようになってから、それまで何も実情を理解せずにやみくもに作って送って来たことを反省しています。あまり深く考えることもなく作りためてJBBYにおくっていた布のえほんやおもちゃを撹上さんが、送り先を的確に選んで、振り分けてくださっていたことに感謝しています。もし、これからもご縁が続く機会があるのでしたら、具体的なご希望をいただければ、できるだけお応えできるよう努力したいと思います。
 もこもこは、地域を中心に障害のある子供達のところへ、布のえほんやおもちゃをプレゼントし、地域療育センター内のプレイルームで 子供たちに布のえほんやおもちゃで遊んで貰い、貸し出しをしています。障害のある子供達との触れ合いの中でグループが少しずつ大きくなって来ました。
 今年、グループが出来てから40年になります。これからも、子供たちの遊びに学びながら、親御さん、先生たちの要望に応えて布のえほんやおもちゃを 考え、たくさんつくっていきたいと思っています。とはいえ、他の多くの布のえほんグループが直面している作り手の減少の悩みは、私たちも深刻です。この悩みは、みんなで工夫し、解決しながら布のえほんを次の世代につなげて行きたいと思います。グループの現状はこんな状況ですから、具体的なご希望をなどと言っても、大したことは出来ないと思いますが、どうぞ、細くても長くご縁が続きますようにと願っています。
                    ぐるーぷ・もこもこ 野口光世


 最後に毎月11日の本の定期送付を2019年の7月で中止することになりました。以下、「これまでの文庫への送付本記録」より引用します。
(https://www.bf-ehon.net/children-in-crisis-living-in-japan/noumaoibunko/soufukiroku)
 野馬追文庫は2011年8月から、「忘れない、持続可能な支援」を試行・志向し、毎月11日の南相馬のその時その時を見ながらの子どもの本の少数定期送付を続けてまいりました。お届けする場所は仮設住宅から南相馬で子育てをしている人たちへの支援活動場所などに移りながら、この8月で9年目となります。
 昨年度日本各地で大きな災害が続き、「被災地」と呼ばれる場所が多く発生し、野馬追文庫を受け取られている皆さんからも、ほかの場所への支援に回してほしというような声がきこえておりましたが、お受け取りいただいていたK様より、この3月で支援の本の受け取りは遠慮したいとの思いをお伝えいただきました。11日定期送付を見直す時期と認識いたしまして、お受け取りいただいていた各所の皆様おひとりおひとりからご意見を伺ってまいりました。支援を受けてきた側の真摯な思いをたくさんお聞かせいただけました。
 南相馬もすべての仮設住宅がこの3月に閉じ、〈復興から発展へ〉というスローガンを掲げる時期に到来していることなどの状況もうけ、11日定期送付という支援の方法はこの7月での、8年間の送付をもって終了させていただくこととなりました。野馬追文庫の活動を全くやめてしまうというものではなく、今後は季節での子どもの本のプレゼント送付など、野馬追文庫でつながってくださった皆様との交流は続けさせていただきたいと願っています。また、37カフェが来月今の場所は閉じることとなり、今回で送付を区切ることとなりました。
 障害児施設かのん・聖愛こども園・かわうち保育所では、送った本を日々の保育活動や療育活動に活用いただいてきており、自分たちで選ぶ本とは違った本が届き、楽しみだったとおっしゃっていただけました。
 今後も定期ではなくなりますが、季節で子どもの本を選んで時折送らせていただくこととなりました。

前号へ トップページへ 次号へ