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通所支援事業所へのサービス(2)
                                   
山 内  薫

      キッズサポートりまへの訪問

 「キッズサポートりま」は未就学から高校3年生までの重い心身障害のある児童とその家族のための通所支援事業所で、次の2つの事業を展開している。
1、墨東養護学校(墨東特別支援学校)の在校生を対象にした放課後等デイサービス
 月曜日~金曜日は14時から17時半まで、子どもを学校まで迎えに行き帰りも車で送る。
 日曜・祝日を除く学校休業日は9時半から17時まで 各家庭とりまの間を車で送迎する
2、未就学の重症心身障害児とその保護者を対象にした児童発達支援
 月曜日~金曜日の9時から13時半まで
 案内には「ご家庭や学校の間の3つめの居場所として、児童とそのご家族が、心豊かで健やかな生活を送れるように、サポートしていきます。」とあり、特色として次の4点が記されている。
○キッズサポートりまは、「学校以外にも地域で過ごせる場所が欲しい」という、児童・ご家族の希望が実現した場所です。
○在宅生活を送る児童の体力・知力や生活能力・社会的応力の向上を図ります。
○看護師を配置し、児童の健康管理や医療連携を行います。医療ケアが必要な児童でも安心して利用できます。
○保護者同士が集まったり、レスパイト(介護者の休養)として利用できます。」
 区内には20以上の通所支援事業所があるが、重度の障害児を対象としているのは唯一このりまのみだった(2016年当時)。
 所長のSさんからの要請があり、施設側と図書館側の日程調整の結果、2016年3月30日(水曜日)の午後に訪問することになった。すでに春休みに入っていて午前中から来所している子どもたちもおり、多くの子どもが参加してくれるということでこの日が選ばれた。
 なお前回も同行して下さった筑波大学大学院のKさんが今回も参加して下さることになった。
 13時 Kさんがひきふね図書館に来館。今日行う行事用大型絵本『ぐりとぐら』(なかがわりえこ文 おおむらゆりこ絵 福音館書店)の中に3回出てくる歌の練習と文章も読む通し練習を2回行った。
 13時30分 私とKさんひきふね図書館職員のOさんとHさんの4人で自転車を使って、りままで向かう。ひきふね図書館から両国駅に近いキッズサポートりままでは自転車で30分余りかかる。
 14時過ぎにりまに到着すると2階の小さな部屋(相談室)に案内されて所長のSさんの話を聞いた。
 「今日は春休みで小学2年生から高校生までの7人の子どもが来ている。4月から高校生は障害者施設へ、1人は八広のすみだこどもの家に行くことになっている。マルチメディア・デイジー図書に興味を持ちそうな子どもが2人いる。この2人は会話によるコミュニケーションが可能。そのうち1人は2桁の足し算の時に上の1の位と下の10の位を足したりしてしまう。本を読んでも行末から次行の行頭にうまく移ることが難しいので、マルチメディア・デイジーは有効なのではないかと思っている。」
「ぐりとぐら」を寝ながら見る子どもたち
 その後、1階に移って入り口近くに机を出してもらい大型絵本『ぐりとぐら』とキーボードをのせて上演した。キーボードによる歌の伴奏と文章の読みは山内、大型絵本の持ち役はKさん、そして歌はKさんとHさんが担当した。歌入りのぐりとぐらはみんなとても良く聞いてくれ、歌のあとに拍手してくれる子どももいた。
 次にHさんが行事用大型絵本『だるまさんと』(かがくいひろし作 ブロンズ新社)を読み、続いて山内が行事用大型絵本『おめんです』(いしかわ こうじ作・絵 偕成社)を読んだ。
 行事用大型絵本は横になったり、臥せっている子どもからも大きくて見やすいの
で、皆さんよく聞いてくれた。「おめんです」では、途中から前にいた女の子(小学校4年生)にお面の下の動物を質問すると答えてくれた。
大型絵本「おめんです」
 次にOさんがiPadに収納されている伊藤忠財団作成マルチメディア・デイジー図書の『コッケモーモー!』(ジュリエット・ダラス=コンテ作 アリソン・バートレット絵 たなかあきこ訳 徳間書店)を見せた。寝転んでみる子どもが多く、広い場所を必要とするためiPadの小さい画面では遠くて画面が見にくくなること、音が小さいことなど複数の子どもたちに見てもらうには無理があったようだ。出来ればパソコンとプロジェクターとスピーカーを用意して壁に映して見てもらう工夫が必要だろう。やはりiPadはあくまでもプライベートユースだと感じた。
 全員への読み聞かせの後は、iPadに収納されているマルチメディア・デイジー図書
表紙の絵を見ながら本を選ぶ
の表紙を並べたポスターを見てもらい、個々に読みたい本を選んでもらった。高学年(4年生)の女の子は電車が好きだそうで『新・東京のでんしゃずかん』(松本典久作 井上広和絵 小峰書店)を自分で画面に触れてページをめくりながら読んだ。その後『はらぺこあおむし』(エリック・カール作 もりひさし訳 偕成社)が好きな子どもが3人いるというので集まってもらい、iPadに収納されている『はらぺこあおむし』を見てもらったが、やはり画面が小さく遠い場所にいた子どもは見にくいようだった。遠くで見ていた子にもう一度画面に触れながら見てもらったが、途中で疲れてしまったようだった。
iPadで「ラプンツェル」を読む中学生
 次に墨東特別支援学校の中学に通っているという男子がグリム童話の「ラプンツェル」(『愛蔵版おはなしのろうそく 3』 東京子ども図書館)をiPadで読み始めた。この作品は伊藤忠財団が作成しているマルチメディア・デイジー図書の中でも、数少ない縦書きの作品となっている。この中学生がSさんの話していた子どもで、普通の本だと次行に視点を移すのが難しいために読むことが困難な生徒だった。しかし、マルチメディア・デイジー図書だと音声が読んでくれる上に、読んでいる部分にハイライトが当たって、今読まれている部分がどこか分かるので、文字を追うことも文章を理解することも出来、とても集中してラプンツェルを読んでいた。実は墨東特別支援学校では熱心な教師によって学校内でマルチメディア・デイジー図書が積極的に取り入れられており、彼も学校でマルチメディア・デイジー図書を利用しているということだった。途中で帰る時間が来たために最後まで読むことができなかった。
 次に高校生の女性にマルチメディア・デイジー図書の『おこだでませんように』(くすのきしげのり作 石井聖岳絵 小学館)を見てもらった。彼女は進行性の難病で、だんだん言葉が話せなくなって、現在は言葉を発することができない。小さい頃からお母さんに本を読んでもらっていて、本は好きだという。しかし、目の前にiPadを持って見てもらったところとても集中して見てくれた。Sさんによれば、興味がなければ目をつむってしまうとのことだった。iPadの画面にタッチすることは自力ではできないので、マルチメディア・デイジー図書であっても自力で読むことは困難である。最後まで見てくれたが、面白かったかどうかの意思表示を確認することができなかった。どこか反応する体の部位があれば○と×のパネルなどを用意してどちらかを選んでもらって意思の確認ができないか、また、読む本の選択もそうした方法でしてもらえたらと思った。
 Sさんも予想以上に子どもたちが喜んでみてくれたと話された。今後定期的に訪問してお話し会などができれば良いだろう。高齢者サービス協力者や子どものお話会に協力して下さっているお話しグループの方に是非協力してもらったり、そうした施設でキーボードを弾いてくださる方の協力も得られれば良いだろう。
 今回の訪問から感じたのは、①iPadはあくまでもプライベートユースであること。②大勢の子どもが一緒にマルチメディア・デイジー図書を見るにはパソコンとプロジェクターとスピーカーを使うこと。③次回行くとしたら、今回の反省から大型行事用絵本『はらぺこあおむし』を持って行って読むこと。また他の施設でもやった大型行事用絵本の『おおきなかぶ』(A・トルストイ作: 内田莉莎子訳 佐藤忠良絵 福音館書店)を歌付きで読むこと。巻紙芝居『おおきなおおきなおいも』(市村久子原案 赤羽末吉作・絵 福音館書店)を上演すること。(実はこの「おおきなおおきなおいも」に関しては、私が作成した巻紙芝居を昔図書館で見た所長のSさんが原本を買ってきて同じものを作るようにりまの職員に指示していたが、未だにできていないという裏話を聞いた)
 筑波大学大学院のKさんの感想
 マルチメディアデイジー図書の有用性を改めて認識できた。手を動かすことに不自由がありページをめくりにくい人でも、タッチをするだけで次のページに、自分のペースですすむことができる。「自分で本が読める」というのは大きな意味があることだと感じた。
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