「うか」120号 トップページへ | ||||||||||||||
点字から識字までの距離(113) 通所支援事業所へのサービス(3) 山 内 薫 |
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キッズサポートりまの毎日新聞社の取材 マルチメディアDAISY図書を作成して全国の図書館や特別支援学校などに配布している公益財団法人伊藤忠記念財団から、「マルチメディアDAISY図書を施設で利用しているところを取材したいという依頼が毎日新聞社からあったが、ひきふね図書館から近々施設に行くことはあるか」と電話がかかってきた。早速キッズサポートりまに連絡して急遽翌週におはなし会を実施することになった。前回参加してくださった筑波大学大学院のKさんにも連絡し、当日来て下さると快諾を頂いた。 2016年7月11日(月曜日)子どもたちが特別支援学校から帰ってくる午後4時過ぎからおはなし会を始めることになった。図書館側の参加者は私と障害者サービス担当のOさん、そして筑波大学のKさんの3人で、ひきふね図書館に午後3時に集合し、出し物の確認や簡単な練習をした後自転車でりまに向かった。伊藤忠からはいつもマルチメディアDAISY図書のことでお世話になっているYさんと広報部報道室の女性の2名、そして毎日新聞の記者が参加した。子どもたちは小学生6人と高校生1人が参加してくれたが、高校生はALSで、特別支援学校から帰ってきて1時間ほど点滴を受けていた。
次に巻紙芝居の『おおきなおおきなおいも』(市村久子原案 赤羽末吉さく・え 福音館書店 1972年)をKさんと2人で上演した。この巻紙芝居についてはすでにこの連載の92で次のように紹介したことがある。 「この巻紙芝居は、1972年10月にこの本が出版された直後の12月に、図書館のクリスマス会で上演するために、前の晩に1晩で作ったもので、障子紙1巻半を使って作成した。この絵本は子どもが描いたような単純な黒の線描に桃色を着色した88ページの絵本なので、何とか1晩で描き上げることができた。芋掘り遠足が雨で1週間延びることになった幼稚園の園児たちが紙をつなぎ合わせておおきなおおきなお芋を描くという話で、描き上げたおおきなお芋の場面が延々14ページも続く見せ場がある。この部分を実際のおおきな1枚の紙にできないかというのがこの巻紙芝居を作成した動機で、巻紙芝居ではこの部分が3メートルほどのおおきなお芋として描かれている。この巻紙芝居は完成以来様々なところで上演されたり紹介されたりしてきた。35年ほど前に女性雑誌の「an・an」に写真入りで紹介されることになったときに作者の赤羽末吉さんに直接電話をして著作権の許諾を頂いた。その後も様々な図書館などに貸し出しされ、その都度、紙を巻くための木の棒が付いたり、巻紙芝居を入れる箱が付いてきたりして今に至っている。巻紙芝居は紙の両端を2人の演者で持って、1人が絵を開いていき、1人が巻き取って演じていくので、ある程度の練習が必要となる。」(『うか』第98号 10~11ページ)また、前回記したように、この巻紙芝居を昔見た施設長のSさんが原本を買ってきて職員に作るように進めていたものである。
続いて、施設では定番のやはり大型絵本の『はらぺこあおむし(ビックブック)』(エリック・カール作・絵 もりひさし訳 偕成社 1994年)をKさんと私が読んだ。前回の訪問ではこの本が好きだという3人の子どもたちに、iPadに収納されたマルチメディアDAISY図書版を見て貰ったが、画面が小さいために、とても見づらく疲れてしまったようなので、今回大型絵本を持って行って上演した。 次にマルチメディアDAISY図書をプロジェクターを使ってみんなで見てもらえたらということでパソコンとプロジェクターを用意して頂いた。壁に映すことを想定していたが、多くの子どもが床に横になっている状態なので、いっそのこと天井に映像を映したらどうだろうかということになり、部屋を暗くしてプロジェクターを天井に向け、全員床に寝転んでマルチメディアDAISY図書を鑑賞した。伊藤忠のYさんが考案したオリジナルのマルチメディアDAISY図書『パパンがパン』は16種類のさまざまなパンが登場する。初めのうちはパンの輪郭が鮮やかな色で示され、一部分だけそのパンの実際の映像がのぞける場面で「あなたはどなた?」「きみはだれ?」「どちらさま?」等と声がかかると、「パパンがパン」と手拍手もに大勢の声が聞こえ「ポワン」という音とともにパンに靄がかかった状態の画面になり、その靄が晴れてパンが映って「私はクロワッサンです」という声が流れる。次は「おいらはベーグル」そして「わたくしはロールパン」、「ぼくはコッペパン」、「あたいはチョココロネ」、「じぶんはメロンパン」「まろはホットドックでごじゃる」等々一人称代名詞をぞれぞれ変えながら話は進んでいき、後半は初めにパンの姿が映し出されてクリームパン、あんパン、ジャムパン、カレーパンと「わたしは」のあとにパンの切り口が映し出される。最後の前は「Who are you?」の呼びかけに「I'm HAMBURGER」と英語になり、最後はまた輪郭が現れて「おれは何もの」との自問に「パパンがパン、ポヨヨーン」「せっしゃフライパン、カーン、おそまつ」で終わる。
その後、伊藤忠のYさんが布団に寝ているALSの高校生の枕元に座ってiPadに収納された『もっちゃうもっちゃうもうもっちゃう』(土屋 富士夫作・絵 徳間書店 2000年)を見せた。彼女はiPadの画面を終始じっと見つめていたが、この件について後日所長のSさんから次のようなメールを頂いた。 「昨年、山内様始め、墨田区立ひきふね図書館の皆様が当方へお越し下さいました際に、マルチメディアデイジーを御覧になった、全身性障がいのある女児の保護者様と、先々月に面談の機会があったのですが、当該女児は普段、目を自由に動かすことが難しいため、幼児期から『対象物を見る』訓練を定期的に受けていたのだそうです。その後本人が、マルチメディアデイジーを読むことに集中し、目を動かしていたことに、保護者様は、長い間の訓練が活かせる媒体に出会えたことを、非常に喜んでおられましたことを、遅ればせながら、報告申し上げます。」 マルチメディアDAISY図書にこのような効果があることが確認できたのだった。 さて、今回のキッズサポートりまでのおはなし会について、毎日新聞2016年8月7日朝刊に次のような記事が掲載された。 「4月の障害者差別解消法施行で、図書館などの施設で障害者への合理的配慮が義務づけられた。伊藤忠記念財団は障害をもった子供たちが読書を楽しめるよう、音声で読み上げる電子図書を国際規格「マルチメディアDAISY(デイジー)」で制作。各地の図書館と共同して普及に取り組んでいる。 東京都墨田区の障害児デイサービス施設『キッズサポートりま』を、区立ひきふね図書館の職員らが訪れ、デイジー図書を使った読書会があった。天井に画面を映し出したあと、タブレット端末を活用。最初にボタンを押せばページは自動進行するため、紙の本をめくれなくても、読書ができる。 参加した7人の子供たちは、部屋のあちこちで食い入るように端末を見つめた。進行性の筋ジストロフィーで自分ではほとんど動けない高校1年の女子生徒(16)は、気に入ったせりふを言おうと、声を絞り出す。自分で読書する貴重な機会だ。 3月まで同図書館の職員だった山内薫さん(66)は「図書館に来ることが難しい子供たちには、こちらから行かないと本に触れる機会がない。デイジーは発達障害、肢体不自由、視覚障害などに対応しており、普通の子供たちと同じように楽しめる」と語る。 デイジーは音声で読み上げている部分をカラーで表示し、肉声の正しい発音で録音しているのが特長。図書館や学校に無償提供している。これまでに、278タイトルを延べ4327カ所に配布した。今年度は9道県立図書館と協力、岡山県は「ももたろう」、奈良県は「わらしべ長者」など地元の民話を、5~15分程度、方言で収録する「日本昔話の旅」も行っている。財団の矢部剛・電子図書普及事業部長(55)は「図書館から学校や地域に広がる。本を読む楽しさだけでなく、自分で読めたことで自信がついたり、友達と一緒に見ることで社会性が向上したりと、副次的な効果も出ている」と話している。【柴沼均、写真も(デイジーを熱心にみる障害をもった子供たち=東京都墨田区の「りま」で)】」 |
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