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点字から識字までの距離(118) 通所支援事業所へのサービス(8) 山 内 薫 |
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3年ぶりのりまでのお話し会とリライトの試み 2019年7月31日にりまを訪問して以降、2020年に入ると新型コロナウィルス感染拡大のために、りまをはじめとする施設でのお話し会等の行事はすべて中止に追い込まれ、全く活動ができなくなってしまった。その間、図書館では何回かリモートによるお話し会を行ったようだが、直接顔を合わせず、一方的に絵本の読み聞かせや紙芝居などを映像で届けても、子どもたちの反応が見えず、苦労したようである。 2022年になって、ようやくコロナも収まりかけ、少しずつ図書館でのお話し会なども再開するようになってきた。そんな折にりまからお話し会の要請があった。 以前からおられるIさんが所長になられ、次のような希望を寄せられた。 「内容や本の程度の希望はないが、入所児童は全く会話のできない重症の子どもたちなので『視覚に訴える大きなもの、色の鮮やかなものが良い』とのことで、今後は2ヶ月に1度くらい実施して欲しい。ただしコロナの状況もあり、決定ではない」とのことだった。 打ち合わせの結果8月18日の木曜日に訪問日が決まった。内容については、近くの緑図書館の担当者が実施案を作成し、当日2時にりまに集合、打ち合わせの後、2時半から30分のお話し会を行うことになった。事前の連絡では、小学生4名と中学生2名が参加予定で、1人の中学生は絵本が好きな方とのことだったので、以前からやってみたいと思っていた「注文の多い料理店」の紙芝居をやさしく、短くリライトして実施することにした。また重症の子どもたちということだったので、以前行って好評だった替え歌の「ねばらねばなっとう」もやることにした。 図書館側の参加者は担当の緑図書館から3名、ひきふね図書館から2名、いつも図書館のお話し会や外で児童館のお話し会に協力して下さっているくさぶえというグループのSさん、そして私の7名が参加することになった。 緑図書館の作成したお話し会実施案は以下の通り。 ①司会 はじめのあいさつ 緑図書館 I ②実施項目 大型絵本 へんしんトンネル Sさん 紙芝居 注文の多い料理店 山内さん 絵本 ねばらねばなっとう 山内さん 歌とペープサート すうじの1はなあに 緑図書館 O 音楽に合わせて振るシャカシャカマラカスの配布と模造紙に書いた歌詞の提示 緑図書館 K 音響係 緑図書館 I おわりのことば 緑図書館 I ③持参するもの 大型絵本台 紙芝居舞台 ペープサート、シャカシャカ 歌詞 その他、感染症対策としてマスクの着用、検温、消毒、手洗いうがい(フェイスマスクは不要) 当日ひきふね図書館組は1時に図書館に集合して自転車でりまに向かった。2時前にりまに到着、緑図書館の人たちと打ち合わせ、ペープサート「すうじの1はなあに」の歌の練習をする。
はじめにSさんが大型絵本の『へんしんオバケ』(あきやまただし作・絵 金の星社2006)を読んだ。予定では『へんしんトンネル』(2002)だったが、急遽『へんしんオバケ』に変更になった。あきやまただしのへんしんシリーズはとても人気のあるシリーズで第1作の『へんしんトンネル』以来、今年9月に刊行された『へんしんロボット』まで、現在まで21作も刊行されている。 第1作『へんしんトンネル』の最初は次のような内容。 1ページ目「ふしぎな トンネルが ありました。そのなも へんしんトンネル。この トンネルを くぐると、なぜか へんしんしちゃうんです。」 2ページ目「あるとき カッパが『かっぱ かっぱ かっぱ・・・・・・・・・・』と つぶやきながらトンネルを くぐると」この見開きぺーじにはカッパがへんしんトンネルに入っていく絵と大きな文字で「かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ・・・・・・・・」と画面一杯の描かれている。そして次ページを開くとトンネルの出口から馬が出てくる絵と大きな文字で「ぱかっぱかっぱかっぱかっ」と描かれ「げんきな うまに なって、 でてきちゃいました。」次は「とけい」が「けいと」に、つぎは「ぼたん」が「たんぼ」にというように、ある言葉を繰り返し唱えると違うものに変身するというのがこのシリーズ共通の内容となっている。
別の場面では、おしゃれなヤギが「ヤギー ヤギー・・・・・・・・」と言いながら洞穴をくぐると「ぎやーっ」と4つ目、4つ角、体が蛇のおかしなオバケに変身している。 児童図書館研究会が静岡県の特別支援学校20校にアンケートを行った結果、子どもたちに人気のある絵本のダントツトップがこのシリーズで、半数近くの学校から名前が挙がっていた。 りまの子どもたちも笑いながらこの絵本を楽しんでいた。
そしていよいよリライト版の紙芝居『注文の多い料理店』を行った。 堀尾青史脚本、北田卓史画、童心社刊の『注文の多い料理店』の紙芝居は、かみしばい宮沢賢治童話名作選の中の1巻として1966年に刊行され、全7巻のこのシリーズが第5回五山賞を受賞している。五山賞は、教育紙芝居の生みの親、高橋五山の業績を記念して1962年に設けられた賞で、1年間に出版された紙芝居の中から最も優秀な作品に授与される賞で、現在まで続く由緒ある賞である。ちなみに2020年の第59回の五山賞は『3月10日のやくそく』(作・早乙女勝元 絵・伊藤秀男)が受賞している。古くから紙芝居と言えば「五山賞」といわれ、紙芝居の芥川賞などとも呼ばれている。 最近『注文の多い料理店』の新たな紙芝居(宮沢賢治原作 諸橋精光脚本・絵 鈴木出版 2019)が、鈴木出版から出版されたが、こちらは22枚と童心社版の16枚よりも多く、通して読むと15分くらいかかってしまうので、易しく読みやすく短くリライトするには童心社版が良いと考えた。童心社版は久しく品切れ、重版未定となっていて、2011年に野馬追文庫の1冊として南相馬に送る1冊として選定したにもかかわらず送れなかった経緯がある。また、この童心社版については、随分前に図書館が廃棄処分したものを入手していたので、リライトした文章を印刷して紙芝居の絵の裏の文章の面に貼り付けることがでた。 童心社版もゆっくり読むと12分くらいかかるので、できれば5分程度に短縮して読めたらとリライトを行った。
東京からきた、てっぽううちのふたりのしんしは、山おくでみちにまよい、あんない人も犬もどっかへいってしまい、がっかりしながら、みちをさがしていました。」 -ぬきながら- (Aジャンパー)『いったい ぜんたい けしからん。 とりもけものもぜんぜんいない。』となっている。 リライト版の文は 「東京からきたふたりのてっぽうううちのしんしは、やまのなかでみちにまよってしまいました。『ぜんたい、ここらの山はけしからん。とりもけものも1匹もいやがらん』 きがつくとあんない人も犬もどこかに消えていました。」 宮沢賢治の擬音はとても重要だが、リライト版紙芝居のはじめに持ってくるのはどうかと考えた。紳士の言葉は原文に近い表現とした。 第2場面は 「ジャンパーのしんしがこぼしました。(Bオーバー)『あんない人も犬も、どこへいっちまったんだろう。かえりみちもわからんぜ。それにぼくははらペコだよ。』 ふとった青いオーバーのしんしもこぼしました。 (Aジャンパー)『ぼくだってそうだ。さむいしはらはすくし、はやく山をおりたいよ。えもののないのはシャクだが、きのうのやどやで、きじでもかってごまかそう。』 (B)『そうだな。いやあ、ぼくははらがすいた。ペコペコだ。』 (A)『ぼくもだ。はらのむしがきゅうきゅうなくよ。なんかたべたいなあ。』 ざわざわざわざわ、はげしく風がふいて、木がゆれました。 -はやくぬく- (B)『あれ、あんないえがあるぜ。』 リライト版の文 「かえりみちもわからんぜ。はらがへったなあ」「ぼくだっておなかがペコペコだ。なんかたべたいなあ。」 ざわざわざわざわ風がふいて木がゆれました。『あれ、おおきないえがあるよ。』」 以下は第3場面のリライト分のみ。 『ほんとうだ。レストランだ。』 『せいよう料理店山ねこけんてかいてある。』 『こんな山の中でも、ひらけてるんだ。』 『早く行って、なにかたべよう。おなかがすいて、たおれそうだよ。』 ふたりはよろこんで、山ねこけんのげんかんにたちました。 第4場面 『いやーきみ、りっぱなレストランだね。ぼくたちにぴったりだ。』 するとポンポンポンポーンとチャイムがなって、こえがしました。『どなたもどうかおはいりください。けっしてごえんりょはありません』『それじゃあえんりょなく、はいろう、はいろう。』 原本では扉に文字が書いてあって、それを2人が読むという設定だが、この紙芝居ではスピーカーから声が聞こえてくると言う設定に変えてある。(ちなみに鈴木出版の紙芝居では原本通り扉に文字が書かれている)この物語の中では、この扉の文字(童心社版の紙芝居ではスピーカーからの声)が最も重要なキーワードとなっているので、この部分だけはリライトや省略はぜずにすべて原本通りとした。紙芝居では少し変えている部分もあり最初の声は「えんりょはありません」が「えんりょはいりません」に変えてある。 このようにして今回のリライト版では、本文は短くリライトし扉の言葉の部分は原本そのままで展開していく。
山からどうとふきおろす風が、かみくずのようなしんしをおいはらいました。 村の子どもたちが、だまってこれをみていました。」と終わる。 リライト版の文 「ふたりのしんしは、しょんぼりとしてえきにむかいました。東京にかえってもふたりのかおは、まるで紙くずのようにくしゃくしゃになったままで、おふろにはいってももうもとのとおりになおりませんでした。」 最後の場面の絵は線路と駅が上に描かれ、畑や山の間の道を2人の紳士と2匹の犬が駅に向かってうつむきながら歩いている様子が描かれている。これは原本にはない情景だが、一応この場面の絵に合わせてリライトも行ってみた。最後の1文は原本の最後をそのまま引用することにした。 このようなリライトによって紙芝居の時間はほぼ半分以下に短くなった。 今回やさしく書き直すリライトを初めて試みたが、肝心の対象と考えていた絵本の好きな中学生が休みだったので、3人の参加者には少し難しかったのでないかと思う。それでもよく聞いてくれていた。短く分かりやすくするということだけではなく、なるべく原本の言葉を忠実に取り込むことを心掛けた。今後も重度の子どもたちには少し長く感じられたり、難しい言葉や表現がある作品について積極的にリライトを試みていけたらと考えている。 最後は緑図書館が用意してきた歌とペープサートの「すうじの1はなあに」(数字の歌)。紙コップを貼り合わせたり、小さなプラスティックのボトルの中にビーズなどを入れて、振ると音の出るシャカシャカマラカスを子どもたちに渡して、歌に合わせて振ってもらう。ペープサートにはそれぞれ数字が表に書いてあり、裏は「工場の煙突、小池のガチョウ、赤ちゃんのお耳、かかしの弓矢、おうちの鍵、タヌキのお腹、壊れたラッパ、棚のダルマ、オタマジャクシ、煙突とお月さま」の絵がそれぞれ描いてあり、「すうじの1はなあに」で表、「工場の煙突」で裏返して絵を見せる。歌詞をかいた模造紙を広げて子どもたちにも見てもらって一緒に歌ってもらう。歌は子どもたちがとても喜んでくれるので、プログラムの中には必ず何曲かの歌を入れる必要があると思う。 今回は3人と少なかったが、その分1人ひとりが集中して楽しんでくれたように思う。 その後はじめは2ヶ月毎にという話であったが、コロナのこともあってりまの受け入れ体勢が整わず、年末も押し詰まった12月26日に2回目のお話し会を行った。(私は仕事の関係で同行できなかった) 今後も機会があれば紙芝居や絵本のリライトや音楽に乗せて演じるなど様々な試みを行っていきたい。 |
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