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点字から識字までの距離(119)
                                   
山 内  薫

     読むことに障害のある子どもへの読み聞かせ・本の紹介13の方法(1)

 東京都立多摩図書館が2013年に刊行した冊子『特別支援学校での読み聞かせ-都立多摩図書館の実践から』は、同図書館が2005年から8年間に渡って実践してきた都立特別支援学校との連携事業の成果をまとめたものだ(https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/uploads/tokubetsu.pdf)。
 都立特別支援学校の幼稚部から高等部までの幅広い子どもたちに絵本を読んできた経験からまとめられたこの冊子の目次は
「Ⅰ、特別支援学校での読み聞かせ 6つの方法」
「Ⅱ、知的障害・肢体不自由の子供たちへの読み聞かせ」
「Ⅲ、聴覚障害の子供たちへの読み聞かせ」
「Ⅳ、視覚障害の子供たちへの読み聞かせ」
「Ⅴ、新しいメディア-マルチメディアDAISY」
の5部構成になっている。中でも「Ⅱ、知的障害・肢体不自由の子供たちへの読み聞かせ」が7割以上のページを占めている。ちなみにⅡでは84冊の絵本、Ⅲでは11冊の絵本、Ⅳでは38人の子供たちに喜ばれたお話が紹介されている。絵本1冊1冊についてあらすじや概要と実際にどんな風に読んだら喜ばれたり、反応があったかが具体的に記されていてとても参考になる。
 この冊子の冒頭「Ⅰ、特別支援学校での読み聞かせ 6つの手法」は特別支援学校だけではなく、特別支援学級や通所支援事業所などで絵本などを読むときの注意点を述べていて注目した。6つの手法とは「1 寄り添って読む」「2 一部分を読む」「3 ダイジェストで読む」「4 読んだことを体験する」「5 クイズをしながら読む」「6 繰り返して読む」の6項目である。
 例えば「ダイジェストで読む」には次のような解説が付いている。「文章通りに読まれると、理解できない子供、最後まで聞くことが難しい子供には、ストーリーをかいつまんで話したり、言葉をやさしく言いかえたりして、読みましょう。ストーリーの本筋に沿って、本の持ち味を損なわないように、伝えてください。読み手は、どのように読むか事前に準備しておきます。子供の様子に応じて臨機応変に対応するとよいでしょう。」
 この6つの手法は、特別支援学級や放課後等デイサービスでのお話し会の経験からも納得の出来る手法だが、例えば歌や音楽がとても効果があることや紙芝居が効果的であることなど、6つ以外にも項目を増やしたらどうかと考え、現段階では13の方法(手法)を提起してみた。
 また、児童図書館研究会が毎月発行している冊子『こどもの図書館』の2021年5月号に掲載された記事「すべての子どもたちに本の楽しさを~特別支援学校での読み聞かせ~」(「こどもの図書館静岡編集委員会)がとても参考になるので、現場の先生方の要望も踏まえた方法も加えてみた。
 この記事は静岡県内にある25の特別支援学校にアンケートしたもので、20校からの回答を6ページにわたって掲載している。アンケートには5つの設問がある
1、貴校の対象障害種は次のうちどれですか。あてはまる番号に○をしてください(複数回答可)。
  (1)視覚障害 (2)聴覚障害 (3)知的障害 (4)肢体不自由 (5)病弱・身体虚弱
2、普段から貴校小学部では読み聞かせやストーリーテリング等の読書推進活動を行っていますか?
  (1)はい (2)いいえ(結果はすべての学校が「はい」だった)
3、児童は次のうちどのジャンルが好きですか?
 あてはまる番号に○をしてください。そのうち、特に好きな内容や本のタイトル、印象深いエピソードなどがあれば、教えてください(自由記述)。
  (1)絵本  (2)ストーリーテリング(※語り手がお話を覚えて、直接聞き手に語ること)
  (3)わらべ歌・手あそび  (4)紙芝居  (5)ブックトーク(※集団の子どもたちに対して、決められた時間内に複数の本を紹介すること)  (6)その他
4、児童の特性から、読み聞かせ会やおはなし会を行う際に気を付けたほうがよい、避けたほうがよいことはどのようなことですか?(自由記述)
5、読み聞かせ会やおはなし会等のため来校する図書館員やボランティア等に伝えたいこと、希望したいことがあれば、お聞かせください(自由記述)。
 この5つの内、4と5はお話し会を行う上でとても参考になるので、集計してまとめてみると次のような意見が上がっている。
 A、環境と全体の構成に関して
1、環境
 ・静かな環境でお話しの声に集中できる環境が良い。(視覚障害)
 ・黒など地味な服装でお願いしたい。
 ・絵本に注目できるよう、教師は何も書かれていない黒板や壁を背にして読み聞かせを行っています。
2、全体構成
 ・始まりと終わりは歌とか決まり文句があると嬉しいです。(知的障害)
 ・プログラムの中にパネルシアターや手遊びなど目先が変わって注目しやすいものを入れてほしい。
 ・1回の読み聞かせ会を15分~20分程度とし、3冊くらいの絵本を読み聞かせること、小学部の低学年は間に手遊びやわらべ歌を挟むことなどが、集中して聞くために有効だった。読み聞かせていただける本を事前に教えていただきたいです。事前に学校でもその本を用意し読み聞かせることで当日の集中力が高まったり、読み聞かせ会の後にもすぐに繰り返し読んであげたりすることができるためです。(知的障害)
 ・見通しがもてないと不安になる子のためには、複数冊読む場合、何冊読むのか、何の絵本を読むのか、どの順番で読むのかなどを、1番はじめに伝えるとよいです。(知的障害・肢体不自由)
 ・読んだ本だけでなく、おすすめの本も紹介してほしい。
3、気を付けること
 ・分かりやすく大きいものを使用して、視覚支援をしていただきたい。(視覚障害)
 ・できれば大きめの本を使う(大型絵本や拡大した手作り絵本、パネルシアターなど)
 ・お話し会では大型絵本を用意していただけるとありがたいです。(肢体不自由)
 ・季節感のあるものや行事と関わりのあるもの。
 ・視覚的な手がかりのない中で話すのは避けてほしい。(視覚障害)
 ・聴覚過敏の児童がいるため、突然の大きな音は出さない。
4、歌
 ・会の中に歌とお話しをバランスよく取り入れた方が絵本に注目したり、集中して聞いたりする。(肢体不自由)
 ・始まりと終わりは歌とか決まり文句があると嬉しいです。(知的障害)再掲
 ・お話しの中に歌などの音楽があると嬉しい。
 ・エプロンシアター、手袋人形、手遊び歌など、触って確認できるもの、歌って楽しめるものなどがあるとうれしい。(視覚障害)再掲
 B、内容に関して
 ・起承転結のストーリーが絵で伝わるもの。(聴覚障害)
 ・なげかけると答える一体感が生まれる絵本を紹介してほしい。
 ・繰り返しのある分かりやすいお話しを期待しています。(知的障害)
 ・内容が分かりやすく、短い物語の本が好ましい。
 ・オノマトペや言葉遊びなどが入っていると楽しめる。
 ・重度重複障害の児童が分かりやすく、様々な感覚を刺激してくれるような本を紹介してほしい(感覚運動期段階の子供たちなので)。
 ・イラストはシンプルな方が絵本に注目する(肢体不自由)
 C、やり方
 ・ゆっくり話していただきたい。
 ・表情や動きなど、表現を大きく豊かにお願いします。(聴覚障害)
 ・一般的な読み聞かせでは、本の世界に集中させたいからといって淡々と読んでしまう場合がある。この方法では、聞こえない子にとっては本を楽しむことが難しい。また、聞こえない子向けにゆっくり読むのは、一般の方にとってはまったりしすぎという印象を受けるかもしれないが、この子たちにとっては必要なことで、それで良いと言うことを分かってほしい。(聴覚障害)
 ・動きがあると興味を持ちやすいのでパネルシアターは好きなのではないかと思います。
 ・エプロンシアター、手袋人形、手遊び歌など、触って確認できるもの、歌って楽しめるものなどがあるとうれしい。(視覚障害)再掲
 ・早口や抑揚のない読み方は伝わりにくい。読み手の表情も見ているので、無表情は避けたい。(聴覚障害)
 ・絵本に出てくる小道具などが、具体物としてあると楽しめる。
 以上の要望や注意点は概ね図書館で行っているお話し会でも共通するものだが、「見通しがもてないと不安になる子のためには、複数冊読む場合、何冊読むのか、何の絵本を読むのか、どの順番で読むのかなどを、1番はじめに伝えるとよいです。」や「聴覚過敏の児童がいるため、突然の大きな音は出さない。」などの意見は今まで余り気にしてこなかったので、参考になる。
 ちなみに自由記述の気を付けたほうがよい、避けたほうがよいことはどのようなことですか?という問いで最も多かったのは、
 ・ゆっくり読む 6校
 ・長くなりすぎない 6校
 ・突然大きな声や音を出さない 5校
 ・大きい本 5校
 ・わかりやすい本 3校
 ・視覚的な手がかりのある本 3校
 などだった。個別意見としては「怖い内容や一文が長い話、複雑な話は避けています。(知)」「読み手の表情も見ているので無表情は避けたい。(聴)」「暗い所や狭い中にいることが苦手な児童生徒もいる(知)」などの意見もあった。
来校する図書館員やボランティア等に伝えたいこと、希望したいことでは、
 ・歌を活用してほしい 6校
 ・くり返しのある分かりやすい話 6校
 ・大型絵本 4校
 ・絵本に出てくる物や小道具などの具体物があると楽しめる 3校
 ・触れるもの(具体物) 3校
 ・表情や動きなど表現を大きく豊かにお願いします 3校
などが上がっている。
 また、設問3の特に好きな内容や本のタイトルとして以下のような本が複数書かれていた。
 ・『へんしんトンネル』などの「へんしんシリーズ」(あきやまただし作 金の星社) 9校
 ・『だるまさんが』などの「だるまさんシリーズ」(かがくいひろし作 ブロンズ社) 7校
 ・『おおきなかぶ』(A・トルストイ再話、内田莉莎子訳、佐藤忠良画 福音館書店) 6校
 ・『はらぺこあおむし』(エリック・カール作、もりひさし訳 偕成社) 6校
 ・『ねこのピート』などの「ねこのピートシリーズ」(エリック・リトウィン著、ジェームス・ディーンイラスト、大友剛翻訳 ひさかたチャイルド) 3校
 ・『さつまのおいも』(中川ひろたか文、村上康成絵 童心社) 3校
 ・『ぞうくんのさんぽ』などの「ぞうくんシリーズ」(なかのひろたか作・絵 福音館書店) 2校
 ・『ノンタンぶらんこのせて』などの「ノンタンシリーズ」(キヨノサチコ作 偕成社) 2校
 ・『わにわにのおふろ』などの「わにわにシリーズ」(小風さち文、山口マオ絵 福音館書店)2校
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