「うか」127号  トップページへ 
点字から識字までの距離(120)
                                   
山 内  薫

     読むことに障害のある子どもへの読み聞かせ・本の紹介13の方法(2)

 さて、『特別支援学校での読み聞かせ-都立多摩図書館の実践から』の「特別支援学校での読み聞かせ 6つの方法」に倣って、私の経験からどんな方法が考えられるかを検討してみた。前回ご紹介した静岡県内の特別支援学校へのアンケートも参考にしながら考えたのが以下の13の方法である。都立多摩図書館の最初の6つの方法はそのまま残し、新たに7つを付け加えた。また該当する具体的な絵本を何冊か挙げた。

1、寄り添って読む
 重度の方には、絵本の文章どおりに読むのではなく、その方の気持ちに寄り添って語りかける。お寿司の絵本であれば、「おいしそうだね」「どのお寿司が好き」、動物の絵本であれば「犬は好き?」「もうじき子犬が産まれるね」など、一対一で語りかけながら読んでいく。
 ・『どんなおべんとう?』(絵 いわき あやこ、文 麦田 あつこ、小学館 2022)
 ・『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(文:おかだだいすけ、写真:遠藤宏、岩崎書店 2021)
 ・『こいぬがうまれるよ』ジョアンナ・コール文、ジェローム・ウェクスラー写真、つぼいいくみ 訳 福音館書店 1982)
 ・『パンダ』(岩合光昭写真 新潮社 2007)
 ・『ごはん』(平野恵理子作 福音館書店 2015)

2、一部分を読む
 本の初めから終わりまで、全部読まなくてもよい。聞き手の興味を持つ部分だけを読むことから始める。たとえば、電車の絵本であれば、一番好きな新幹線の場面だけを、仕事の絵本であれば、大きくなったらなりたい職業、例えば花屋さんの場面だけをじっくりと楽しむ。興味が広がるにつれ、楽しめるページが増えていくだろう。この手法は、図鑑や知識の本で特に効果がある。
大きな運転席図鑑
 ・『めくって学べるしごと図鑑』(学研プラス 2020)
 ・『ただいまお仕事中』(おちよしこ文 秋山とも子絵 福音館書店 1999)
 ・『のぞいてみよう!厨房図鑑』(科学編集室編 学研プラス 2012)
 ・『大きな運転席図鑑 きょうからぼくは運転手』(元浦年康写真、学研プラス 2010)

3、ダイジェストで読む
 文章どおりに読まれると、理解できなかったり、最後まで聞くことが難しい場合には、ストーリーをかいつまんで話したり、言葉をやさしく言いかえたりして読む。ストーリーの本筋に沿って、本の持ち味を損なわないように伝えたい。読み手は、どのように読むか事前にリライトなど原稿化して準備しておく。また、読んでいるときの聞き手の様子に応じて原稿をカットしたり、わかりやすい言葉で2度読みするなど臨機応変に対応するとよい。
 例えば『注文の多い料理店(名作文学紙芝居)』(宮沢賢治原作 諸橋精光脚本・絵 鈴木出版 2019)の場合、そのまま読むと15分ほどかかるが、作中の扉に書かれた文字を中心に他の部分はかなり省略して読み進めると5分以下で読むことができる。

4、読んだことを体験する
 実物を添えたり、読んだことを体験してみると、本への興味が深まる。ドングリの絵本なら、実物のドングリで子どもの興味をひいてから視線を本の方へ誘ってみる。実際にドングリ拾いをしてみるのもよいだろう。
 『干したから』(森枝卓士 写真・文 フレーベル館 2016)は様々な乾燥食品を紹介した写真絵本だが、ダイコンと切り干しダイコンなど、元の食品と乾燥食品の実物を見てもらったり、かつお節は元はどんな生き物だったか、など現物を見て想像してもらえると良いだろう。さらに同じ作者の『食べもの記』(森枝卓士 福音館書店 2001)には、乾燥食品だけでなく世界の様々な保存食も写真で紹介されているので、興味を持った子どもには併せて紹介するとよい。
 ・『びっくりまつぼっくり』 多田多恵子作 堀川理万子絵 福音館書店 2010
 ・『どんぐりころころ』 片野隆司写真 ひさかたチャイルド 2007
 ・『くだものなんだ』 きうちかつ作絵 福音館書店 2007

5、クイズをしながら読む
 読む前などにクイズを入れて、聞き手と応答してから読むと集中してもらえる。クイズが好きな子どもも多く、クイズ形式の絵本は人気がある。例えば「十二支の絵本」を読む前にみんなの干支を聞いたり、来年の干支を答えてもらってから読むことも導入になる。
 ・『どっとこどうぶつえん』(中村至男作 福音館書店 2014年)では、ドットで描かれた様々な動物を当ててもらう。
 ・『いるいるだあれ』(岩合日出子文 岩合光昭写真 福音館書店 2007年)は動物のシルエットから動物名を当ててもらう。
 ・『やさいのおなか』(きうちかつ さく・え 福音館書店 1997年)は野菜の断面から野菜の名前を当ててもらう。
 ・『まどのむこうのくだものなあに?』(荒井真紀さく 福音館書店 2019)
 ・『おめんです』(いしかわこうじ 偕成社 2013)
 ・『LOOK AGAIN!』(TANA HOBAN MACMILLAN 1971)

6.繰り返して読む
 機会があれば同じ本を繰り返し読むと、その時に応じていろいろな楽しみ方をしてもらえる。小さい頃楽しんだ絵本を大きくなってから、また読むのも実りがあるだろう。
 ・『おおきなかぶ』(A・トルストイ 再話、内田莉莎子 訳、佐藤忠良画 福音館書店 1966)のなかで繰り返される「うんとこしょ どっこいしょ」などのように絵本の中にくり返し現れる言葉を一緒に唱和してもらうことで、本読みに参加してもらうこともできる。
 ・『三びきのやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウンえ せたていじやく 福音館書店 1979)
 ・『かばくん』(岸田衿子さく 中谷千代子え 福音館書店 1966)
 ・『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』(かがくいひろし ブロンズ社 2008)

7、ことばを楽しむ
 子どもは、リズミカルで楽しい音やことばに反応する。リズミカルなことばに体をゆすったり、声をあげたりすることもある。
 「もこもこもこ」という人がたまにいるが、正しくは「もこ もこもこ」と1つ目と2つ目のもこの間は1拍空けるのが正しく「もこもこもこ」は誤読といってもいい。『ころころころ』を歌にした経験があって反応は良かったが、「もこ もこもこ」は歌にはできない。
 三宮麻由子の絵本『おいしいおと』や『でんしゃはうたう』に出てくる音は読みの脚本といっても良い。「どだっとおーん どだっととーん どだっととーん たたっ つつっつつ たたっ つつっつつ どどん たたっ つつっつつ たたっ つつっつつ どどん」をどんな風に読むか読み手の表現力や想像力が問われる。また聞き手と一緒に唱和して楽しむのも良いだろう。
 ・『ころころころ』(元永定正さく 福音館書店 1984)
 ・『もこ もこもこ』(たにかわしゅんたろう さく もとながさだまさ え 文研出版 1977)
 ・『おいしいおと』(三宮麻由子ぶん ふくしまあきえ え 福音館書店 2008)
 ・『でんしゃはうたう』(三宮麻由子ぶん みねおみつ え 福音館書店 2004)
 ・『カニ ツンツン』(金関寿夫ぶん 元永定正え 福音館書店 2001)
 ・『コッケモーモー!』(ジュリエッド・ダラス=コンテ文 アリソン・バートレット絵 たなかあきこ訳 徳間書店 2001)

8、紙芝居を有効活用する
 紙芝居は舞台があることで絵本などとは違った臨場感があり、注意を引きやすい。紙芝居を演じるときには読み手の顔を隠さずにみんなに見えるようにして読む。ただし『「紙芝居」の舞台は、演者と子どもたちの間にどうしても距離感が生じる、それを嫌がる子どもたちもいて、舞台は子どもたちの様子次第で使っています。』(『おはなし会がはじまるよ-特別支援学校(肢体不自由校)での図書館活動』 おはなしの会うさぎ編集発行 2017)という指摘もある。
 ・『おおきくおおきくおおきくなあれ』(まついのりこ作・絵 童心社 1983)
 ・『ぞうさんきかんしゃぽっぽっぽっ』(とよたかずひこ 童心社 2017)
 ・『いもむし ころころ』(長野ヒデ子脚本・絵 童心社 2017)
 ・『おにぎりおにぎり』(長野ヒデ子脚本・絵 童心社 2008)

9,歌や音楽を取り入れる(「おおきなかぶ」「ぐりとぐら」の楽譜参照)
 絵本や紙芝居などを読む場合、歌や音楽を入れるととても効果的である。歌などが出てくる作品は勿論、どんな絵本でも、言葉にちょっとした節をつけるなど音楽に乗せることで、聞き手を引き込むことができる。また、絵本を読む前に関連した歌を歌うなども効果がある。替え歌の絵本『ねばらねばらなっとう』(林木林作 たかおゆうこ絵 ひかりのくに 2019)は「静かな湖畔」の替え歌絵本で、カッコーという部分をナットーに変えるのだが、皆さんに「ナットー、ナットー、ナットナットナットー」と唱和してもらいながら進めていくと盛り上がる。
 ・『ぐりとぐら』(中川李枝子文 大村百合子絵 福音館書店)の中には何回か歌が出てくるが、自分なりに工夫して歌にするとよい。なお『ぼくらのなまえはぐりとぐら-絵本「ぐりとぐら」のすべて』(福音館書店母の友編集部編 福音館書店 2001)には読者が作ったこの歌の116の楽譜が採録されている)
 ・『おおきなかぶ』(A・トルストイ 再話、内田莉莎子 訳、佐藤忠良画 福音館書店 1966)の初めの部分「あまいあまい かぶになれ おおきなおおきな かぶになれ」というお爺さんのはじめの言葉を歌にするとお話しの導入となる。

10、絵だけのページに文章を加える
おこだでませんように 1
おこだでませんように 2
 絵本の中にはストーリーの展開を絵だけで表現しているものもある。ぱっと絵を見ただけでは理解が難しいような場合には、文章起こしして言葉を補って読む工夫をしてみたい。ここでは横浜市立盲特別支援学校の例を紹介する。2009年の読書感想文コンクールの課題図書になった『おこだでませんように』(くすのきしげのり・作、石井聖岳・絵 小学館 2008)の例。8ページでは「ぼくはがっこうでもよくおこられる。」という文章にカマキリを女の子に見せている場面がある。この画面にさらに下記のような文章を起こして加えている。「ぼくはがっこうにいくとちゅう/おっきいカマキリをとった。/ともちゃんよろこぶとおもうたんや。/ともちゃんにあげようとしたら/ともちゃんないてしもた。//せんせいにまたおこられた。」。また次の9ページも給食当番の白い服とほっかむりとマスクを付けた僕が給食の器に山盛りのスパゲティーをついでしまい、慌てて先生が止めようとしている絵だけが描かれている。そこには「きゅうしょくとうばんのとき スパゲティーを やまもりついでしまって またせんせいにおこられた」と文章を加えると、給食の時の様子で1人分のお皿に必要以上にスパゲティーをついでしまった場面ということが分かりやすいだろう。

11、ゆっくり読む
 絵本などを読む場合、普通よりもゆっくりと時間をかけて読むとよい。聞き手表情などを見ながら、楽しんで下さっているかどうかを確認しながら読む。また文章にある1つ1つの言葉を丁寧に話し、キーとなる言葉はゆっくり際立たせて読むと、聞き手の理解が増す。
 『おおきなかぶ』や『三びきのやぎのがらがらどん』のようにストーリー・テリングを元に展開していく絵本もあるが、絵本は[絵]本であり、本来1ページ1ページの絵をゆっくり見て楽しむものである。ともすると文字を読むことが主になりがちだが、時間をかけて絵を楽しんでもらう工夫も必要だろう。

12、絵と文章の関係をよく見極める
 『どろんこハリー』(ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 わたなべしげお訳 福音館書店 1964)の本文は5ページ目に印刷されているが、「ハリーは、くろいぶちのある しろいいぬです」は表紙を見せながら左側の犬を指さして読み、次の「なんでも すきだけど、おふろにはいることだけは、だいきらいでした。」と標題紙のページを見せながら読む。さっとページをめくって、次の見開きページで「あるひ、おふろに おゆをいれるおとが きこえてくると、ぶらしをくわえて にげだして」と言い、本文のある五ページの階段を駆け下りるハリーを見せて,次のページをめくり「うらにわに うめました」と読むと絵-と文章のつじつまが合う。この本は絵をゆっくり丹念に時間をかけてみてもらう。(『心に緑の種をまく-絵本の楽しみ』 渡辺茂男著 新潮社 1997 186~190ページ参照)
 『ロバのシルベスターとまほうのこいし』(ウィリアム・スタイグ作 せたていじ訳 評論社 2006)のシルベスターが石からロバに戻る場面の文章は「ほんとのぼくにもどりたい!」と願うところまで、前のページで読んだ方がよい。
 『ぐりとぐら』(おおむらゆりこ え なかがわりえこ 文 福音館書店 1967)の23ページの2行目までは前のページを見せて読む。
 『はちうえはぼくにまかせて』(マーガレット・ブロイ・グレアムえ ジーン・ジオンさく もりひさし やく ペンギン社 1981)の冒頭に「ある日、トミーはおかあさんに言いました。」と補っても良い。(『よみきかせのきほん-保育園・幼稚園・学校での実践ガイド』 東京こども図書館 2018 参照。またこの冊子の巻末のキーワードから絵本を探すための件名索引も参考になる)

13、むずかしい言葉をやさしい言葉になおす
 絵本や物語の中にむずかしい表現や分かりにくい言葉が出てくることがある。前出の『どろんこハリー』27ページには「にかいへむかって いちもくさん」という文章が出てくるが、場合によっては、その部分を「にかいにむかって おおいそぎ」と言い換えるとよい。また、16ページの「もっといっぱいあそびたかったけど、うちのひとたちに、ほんとうにいえでしたとおもわれたらたいへんです」という部分では、そのページに描かれていない「うちのひとたち」の考えが間接話法で表現されています。このような場合主語を補い「ハリーは、もっと遊びたいと思ったけれど、家に帰ることにしました。」と、思い切って単純化する。(『特別支援学校での読み聞かせ』より)
 また、ろう学校での例として次のようなレポートもある。「『にわかに水かさが増す』という文を読んで、『庭/蟹/水/傘/増える』という手話で表し、『蟹がなぜ出てくるの?』と尋ねると『蟹は水が好きだから』などと答えた例のように、間違って解釈する例が多いので、『にわかに』の下に『急に』、『水かさ』の下に『水の量』などと補足説明がある図書も必要だろう。(脇中起余子「聴覚障害特別支援学校(ろう学校)と学校図書館」,野口武悟編著『一人ひとりの読書を支える学校図書館-特別支援教育から見えてくるニーズとサポート』読書工房 2010)」
 このような場合には「きゅうに水の量がふえて」とやさしい言葉に替えると分かりやすいだろう。
 以上はろう特別支援学校での実践の中から得られた方法だが、重度の障害児の場合にも応用できるだろう。ただし、本来の読み聞かせは、あくまでも原本の表現を尊重して行うことが望ましいことはいうまでもない。従って「いちもくさん」という表現を残して「にかいにむかって いちもくさん おおいそぎ」と重ねて言葉を補ってもよいだろう。
 また「五羽の子ガラス」というような場合も「カラスの子どもが五羽」というように言い換えるだけで分かりやすくなる。
前号へ トップページへ 次号へ