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点字から識字までの距離(121) 山 内 薫 |
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高齢者施設でのお話し会15の方法(1) 前回、『特別支援学校での読み聞かせ-都立多摩図書館の実践から』の「特別支援学校での読み聞かせ 6つの方法」に倣って、私なりの13の方法をご紹介したが、図書館では特別支援学級や放課後等デイサービスなどと同じように、高齢者施設にも出かけていって、お話し会を実施してきた。 そこで、高齢者施設でのお話し会で気を付けることを15にまとめてみた。 墨田区における高齢者サービスの経緯
〈1〉老人保健施設秋光園からの団体貸し出しの要望と拡大写本サービス 施設の1階に赤とんぼ文庫という名前を付けられた木製の本棚がありその上に「貸出ノート」が用意してあって、自室へ持っていく人は、本の名前をそのノートに記載するようになっている。ノートには述べ35人(実数で13人)が48冊の本を借りた記録が記入されていた。その内半数以上は埼玉福祉会の大活字本であった。その内Tさんが15冊、Sさんが10冊、Mさんが7冊と3人で7割を占めている。大活字本の他「ひばり自伝」「墨田や東京関係の本」「旅行案内」「将棋」「料理」「生け花」「芝居」等の本が散見された。利用者の大半は2階の比較的自立している人で、3階の介助の必要な人の利用は1名だけであった。ただ自室には持っていかないが写真集などを1階のフロアで利用する人も多いという。テープ雑誌、録音図書や市販のカセット・テープの落語等はほとんど利用されなかった。それは部屋に機器がなかったり、機器の操作が困難であるという理由の他に、耳で聞いただけでイメージを膨らませるということが苦手な人が多いからと施設の担当者は語っていた。 (施設職員から寄せられた今後の要望) 1、大活字本をもっと増やして欲しい 2、漫画(サザエさん、いじわるばあさん等)など気軽に読めるものが欲しい 3、クラブ活動を行っているのでそれに関連した本が欲しい(ペーパーフラワー、リボンフラワー、籐、陶芸、アンデルセン、牛乳パック、刺し子、ちぎり絵など)
5、海外旅行の経験者もいるので、日本各地だけでなく各国の写真集が欲しい 6、神社仏閣、動物や花、鳥、山等の写真集や図鑑 7、星野富弘、相田みつをの画集 8、カセット・テープはナツメロ、民謡等がよい 9、リハビリに使うためのカラオケの歌詞を拡大写本して欲しい(銀座の恋の物語など12曲と五木ひろしの唄) (担当者からのコメント) 入所者の中には、人とのコミュニケーションが取りずらかったり、輪の中に入れない人もいたが、本を読むことで時間が過ごせるので、施設での生活が良くなった。本を媒介にして入所者同士あるいは職員とも会話が生まれるようになり非常に良かった。(大活字本の貸出状況を見ると1人の人が借りた本を次に違う人が借りているケースがいくつか見られた) 図書館から施設の担当者が個人的にビデオを借りて見てもらっているが好評である。(鳥や動物のビデオ) 1998年3月3日 秋光園のひな祭りに図書館のPRと「あかとんぼ文庫」の紹介のための時間をとってもらう。そこで紙芝居をやってほしいという要望が担当者からあり、復刻版の「黄金バット」と付録のテープを持って出かけていった。待ち時間の間に痴呆のお年寄りのリハビリを担当している職員と話しをする機会があり、その職員は黄金バットを持ってきたことに非常に興味を示した。その人の話によると、現在痴呆のお年寄りのリハビリのために子どもから青年期にかけての良い思い出を引き出す「回想法」を取り入れている。例えば、昔三味線を習っていた人に三味線の音曲を聞いてもらったが、現在の三味線の音は違うという。そこで昔の演奏をSP盤から取って聞いてもらったところ、「この音だ」と言った。三味線の弦は絹でできているが、最近の蚕は養殖の過程の一部で人工飼料を使用しているので、音が変わってきている。そうした微妙な音の差異を聞き分ける能力が潜在的に残っている。そうしたものを引き出すことによって、痴呆のリハビリを行っている。また、七輪なども回想を引き出すために使うが、新しいものはダメで、炭で真っ黒になったものでないと役に立たない。黄金バットは非常に興味があるので一緒に付いている昔の紙芝居屋さんのテープで口調を勉強して是非やってみたい。最近でた「回想法」という本の付属ビデオには、ドイツの老人施設で行われている例なども紹介されているが、そこでは舞台にナチスの制服を着た人が登場するなどして、回想法を行っている。回想法は良い思い出を引き出す事が大切で、マイナスの記憶を引き出してしまうと精神的に不安定になってしまう人がいる。先日、お年寄りたち何人かが話しをしている内に、自然に東京大空襲の話になってしまい、2人のお年寄りが2日間不安定な状態に陥ってしまった。従って東京大空襲や戦争、関東大震災などについては極力触れないように気を付けている。 (われわれの感想) 黄金バットの紙芝居を持って会場(食堂)に行ったところ、1テーブルに10人のお年寄りがおり、テーブルが12もある広い場所だったので、テープを流しながら、場面を見せて回る予定だったが、テープが捻れてしまってうまく作動せず、結局マイクを使って紙芝居を行った。読み終わった後、紙芝居の1場面1場面を各テーブルに持って回わり、お年寄りに見てもらった。何人かのお年寄りは懐かしがって話題にしていた。しかし、いかんせん場所が広すぎるので、今度は10人位を相手に是非やってみたい。 1階と個人利用しているMさんがいる2階しか訪ねたことがなかったのでこれほど多くのお年寄りが入所していることに驚いた。職員によれば7割の人は痴呆の人だと言う。 今回の経験から、本だけでなく、回想法を支援する様々な資料(昔の日常生活用具、昔流行った音楽、ポスター、絵画、遊具、模型、写真、薬など)を図書館として貸し出しできるのではないかと痛感した。 〈2〉特別養護老人ホーム「清風園」での個人貸出 1、相手から言われた本のことを知らないと会話がそこでとぎれてしまう可能性が強い。その反面、その本や作者のことをよく知っていると会話が広がる。(中谷宇吉郎の随筆) 2、同じような興味や話題を共有する必要がある。(例えば歌舞伎) 3、地元のことや地元の昔のことを知っていなければならない。老人ホームに入居している年寄りは地元の方が多く、「両国橋の近くに大きな碑が建っていたけれども」とか「戦前には相生町と言っていた辺りに家があって」等の話題が会話の中で多く出てくる。現地の写真を撮ってきて見せた。 4、本にはなじめなかったり、目の具合が悪くて本を読めない人も多いので音声資料や視聴覚資料が活躍する。 5、ナツメロなどをみんなで一緒に聞いて楽しんでいる。 6、痴呆のお年寄りに、本を見せたところ「その黄色い本は、あたしの本だから返せ」と迫られる。 7、4人部屋の人間関係は複雑で、同じ部屋にいる人に対する物言いや世話の仕方などで、そこでの関係や人間性が見えてしまう。
9、読む人は概して週刊誌や新聞などをよく読んでいる。 10、大きな活字の本がやはりよく利用される。 11、現在のところ女性のみの利用(カセットを借りる男性1名) 清風園で借りられた資料(Fは女性、Mは男性) F 癒されて生きる、夢について、小石川の家、日常塾確かな生き方、人生午後の時間のために、リンボウ先生の遠めがね、六十六の暦、駆け落ち(リクエスト)、やさしさが女性をかえる、妄想の森、うたかた・サンクチュアリ(最近の本も良く読む)ももこも話、カセット迷宮 F 戦争と平和、カラマーゾフの兄弟(字の大きいものと言われ子供向きの抄訳一冊本を持っていく)、藤村詩抄上下 F 座右の銘(俳句、書道関係の本をよく借りる) F 歴史と旅、演劇界、長谷川町子全集、池波正太郎の小説、名著復刻日本児童文学館(同室でいつも眠っていて歌舞伎が好きな人の分も借りて一緒に見ている) F 四国八十八カ所、演劇界、浅草の肖像、歴史読本、中村勘三郎、川口松太郎集(大活字)時代劇スター大行進 F 永代橋崩落上下(大活字本)、演劇界、豊臣家の人々上中下(大活字本) M カセットテープ、浪曲百番、ふるさと、民謡、婦系図、 F 鉄道員(大活字本)、日本の滝(写真集) F 御宿かわせみ(大活字本) 5階 ナツメロのCD、写真集、大活字の歌詞集、大相撲への招待、フクちゃん また1990年代に特別養護老人ホームでお話し会などを実施していた図書館のレポートが2つあったのでレジュメで紹介した。 〈3〉豊中市立図書館における「特別養護老人ホームでの出前朗読会」1997、1、22 OLA基本研修会資料より 1994年9月から開始。月1度ホームの食堂で30分間、平成3年に開いた対面朗読ボランティア養成講座を受講した2つの市民グループが4人一チームになって隔月交代で出前をしている。毎回20~30人のお年寄りが楽しんでいる。「エッセイ、短編小説、季節の行事風物に関する読み物、テレビの料理番組本、絵本など」 ある日のプログラム (「どじょっこふなっこ」など春に関連した童謡テープを流す) (1)「小原流草花4月号」よりエッセイ「日本人の桜観」(朗読の間、他のメンバーが桜の写真集を開いて、お年寄りの間を回る) (2)金子みすず「わたしと小鳥とすずと」より詩五編 (3)沢村貞子「寄り添って老後」より「あそぶってなに」「忘れる」(ロシア民謡「カチューシャ」の演奏テープを流す) (4)「広報とよなか」より市民からの投稿エッセイ「思い出の歌」「白い花の咲く頃」 (5)「広報とよなか」より「とよなか人物ものがたり・那須与一」 「エエ話やったな。来月も楽しみに待ってるぜ」と声が上がる。 〈4〉特別養護老人ホームへの対面朗読サービス 国立市 東公図職員研究集会 1977、1、23 特別養護老人ホームよりの依頼文 「現在、50名の利用者が当苑で生活を送っていますが、様々な慢性疾患や、心身障害のため生活全般に介護を必要とする状態です。その援助の柱として、基本的な生活援助の充実と、共同生活の中で豊かな人間交流や潤いのある生活への援助を課題としています。そのような中で先般、貴館の対面朗読を知る機会を得まして、余暇生活の充実を図るため、読書会へのご協力をお願いいたします。」「普段文字情報に接する機会の少ない、視力障害者や寝たきりの利用者に、読書会を通じ文字情報を提供し、余暇活動の充実を図る。」苑では、「読書会」を一般のレクリエーションに参加できない人の代替リクリエーションと考えていたようでリハビリテーションの要素を含む。 1994年の6月から月2回隔週午前中の1時間ホームのロビーに間仕切りをして実施。参加者5~7名で全員車いすで半円形を描く。通常音訳者2名だが2、3カ月に1度は図書館員も行う。1時間読みっぱなしだと全員眠ってしまうので、短い小説やエッセイで読んだことによって雑談がもてるようなもの。はじめの頃には全く反応がなく、半数以上は気持ちよく眠っている。何度か続けていく内にこちらが持ち出した話題にのって話してくれたり笑い話の落ちのところで笑ってくれたりするようになる。文中に歌が出てきたりすると普段黙っていた人が突然その歌の1番から3番までを歌いだしたり、戦争中の生活を綴ったエッセイを読んでいたらボロボロと涙をこぼす人がいたりと手応えを感じるようになった。苑からの要望で長いものにも取り組みはじめ子供向きの「東海道中膝栗毛」を毎回少しずつ読むようなこともしている。 個人利用を呼びかけたが、集団生活をしていてとても忙しいこと、自分だけが特定のサービスを受けることに非常に気を使うなどの問題から利用してもらえない。 |
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